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中期活動方針・中期活動計画(2023年度〜2025年度)

2023年4月、ムラのミライは設立30年を迎えました。今後もメタファシリテーション(R)手法を手に「コミュニティと経済と環境が調和した状態の、人間の営みの実現」を目指し、そのような活動を続け、それを担う人材の育成を行います。以下、2023年度から3年間の日本と海外、それぞれの中期活動方針と計画です。

(ムラのミライで中期活動方針を発表するのは、2015年以来、8年ぶりです。中期活動方針・計画の策定までは、文末の「中期活動方針・計画に着手した経緯」をご覧ください。)

 

日本での3つの中期活動方針

「コミュニティと経済と環境が調和した状態の、人間の営みの実現」を目指す「仲間を増やしていく」というのが日本での中期活動方針の柱となります。

現在、日本では、後述する海外での活動のように、定款第3条の目的に合致する場所、協働する相手が具体的ではありません。なので、海外での活動方針に比べ、日本での中期活動方針が、明快さに欠けると思われる方もいるかもしれません。

「仲間を増やしていく」という活動は、種まきです。この種は、海外での活動がそうであったように、やがて次の世代を担う子どもや若者が主役となり、地域コミュニティが資源を維持、活用、循環させる仕組みや暮らし方を、創り出していく芽となると考えています。

その種まきとなる活動の柱は、以下の3項目です。

  1. メタファシリテーションを伝えられる人を増やす
  2. メタファシリテーションを知ってもらう機会を増やす
  3. 話を聴く時間/場をつくる

1.メタファシリテーションを伝えられる人を増やす

2022年上半期に「メタファシリテーション」の商標登録も済み、講座(ステップ1〜3)・教材づくり、検定試験(3級〜1級)、認定トレーナー養成研修の準備が進んだことから、メタファシリテーションを正確に伝えられる人を増やす環境づくりは完成しつつあります。これまでは、和田、中田から直に学んだ、限られた人たちだけで、メタファシリテーションを伝えていくことが精一杯でした。しかし、ようやく、私たちは、仲間を増やしていくことができるようになったのです。 認定トレーナー養成には、オンラインや対面での研修、オンラインコーチングだけでなく、実地で研修する必要も出てくるため、積極的に自治体やNPOなどと協働事業を実施し、現在の認定トレーナーが実地で、指導できる機会を作っていきます。特定の地域や分野で協働する個人や団体を増やし、分野別の教材も充実させていきます。

2.メタファシリテーションを知ってもらう機会を増やす

上記1のためには、まず1人でも多くの人にメタファシリテーションを知ってもらう必要があります。その入り口を増やしていくために、これまでの体験セミナーに加え、私たちがそれぞれ取り組んでいるテーマごとの体験セミナーや動画、音声などを使った配信も積極的に行なうことで、メタファシリテーションを知ってもらう機会を作っていきます。

3.話を聴く時間/場をつくる

メタファシリテーションを使えるようになるためには、繰り返し「聴く/聴いてもらう」時間が必要です。そして、より多くの人たちに知ってもらうためには、その効果を検証した上で、伝えていく必要があります。そこで、研修や事業を通じて出会えた人の話を、スタッフや認定トレーナーが話を聴いたり、メタファシリテーションを学んでいる人たち同士でお互いに話を聴き合ったりできるような場を作ります。

海外での活動方針

海外での活動は、セネガルで、2017年から始まった循環型農業を実践するモデル農場の整備と循環型農業の普及を継続し、本格的に農村の若者たちを協働事業のパートナーにした活動を行なっていきます。

これまでムラのミライと一緒に活動してきた、セネガルのある村の農民は、研修で学んだことを活かし、村全体の土と水の保全計画を立て始めています。それは「村の資源を枯渇させず、増やして未来の世代に残す」という計画です。

セネガルの小さな村で始まりつつあるこの試みは、まさに「地域コミュニティが資源を維持、活用、循環させる仕組みや暮らし方を、創り出していく」そのものです。農民たちの村での活動が可能になるような新規事業の準備を続けていきます。  セネガル以外の国での活動に関しては、上述の目的に合致する人材育成の要請に応じて協働事業を行っていきます。


中期活動計画

中期活動計画づくり、その前に

2022年10月以降、事業ごとのチームで、日本と海外の中期活動計画の検討を始めました。

しかし、チーム制を導入したとはいえ、2022年度実施中の事業ですら、共有・分析し、課題を抽出し、次の活動計画につなげるという時間をチームで十分に持つことができていないのが現状です。

添付資料1は、日本と海外での活動は、チームで検討した活動計画の一覧ですが、ご覧いただくとわかるように、特に日本の計画は、かなりぼんやりとしています。その大きな理由に、中期活動計画を立てるための原材料不足が挙げられます。原材料については次に詳述します。

全員が遠隔で、会って話す機会はほとんどない状態で、2時間、1時間と時間を区切ってオンラインでの話し合いを重ねてきましたが、少人数であっても経験の共有や課題の分析をするような話し合いにはオンラインは適していないことも実感しました。

メタファシリテーションの効果検証のための「聴く」活動 

原材料に話を戻しましょう。中期活動計画を立てるための原材料は、「メタファシリテーションによって、誰が、何をできるようになったのか/できなかったのか」という定量的、定性的データと言い換えることができます。そのようなデータが比較的集めやすいのが、長年行ってきたメタファシリテーションの講座です。また、数は限られてはいますが、ムラのミライと複数年にわたってプロジェクトなどで協働したことのある方たちもいます。

中期方針は、認定トレーナーやスタッフ各自が「メタファシリテーションによって、誰が、何をできるようになったのか/できなかったのか」を一人一人が振り返ることで作り上げていきました。これを、さらに「誰が」の部分を広げ、聞く内容を絞り込んで、定量的、定性的データを集めていくことができないか、というのがそもそもの発想でした。

中期活動計画一覧を見ていただくと、すでに「誰と」「何を」という部分に関しては、浮かび上がりつつあるのですが、誰もがわかる形にしていくには、もう少し過去の経験からのデータを揃え、分析する時間が必要というのが現状での認識です。

時系列で聴く「ムラのミライと私」

それでは、具体的に何をするかというと、2023年度は、国内でメタファシリテーションが伝えられ始めた2007年頃から2023年までの間で、国内外で、メタファシリテーションを学んだことのある人、ムラのミライと複数年にわたり協働したことのある人から、スタッフや認定トレーナーで分担して、事実で話を聞いていきます。

ムラのミライを最初に知ったときはいつか、その後、誰との対話で、誰を対象にした事業で、どのように実践をしていったのか、実践をしなかった/できなかったときはいつか、どんなことか、ムラのミライとの協働で難しかったり、負担だったりしたことは何か等を、時系列で聞いていく試みです。

ムラのミライというコミュニティに根差した課題分析

今後3年をかけて実施していくことは、ムラのミライがこれまで海外での住民主体の事業で、大事にしてきた5つの要素を、「ムラのミライ」というコミュニティに対して実践する、とも言えるでしょう。

5つの要素:1)パートナーシップの構築、2)コミュニティに根差した課題分析、3)行動計画の策定、4)実施とモニター、5)評価とフィードバック

聞かせていただいた事実をもとに、コミュニティに根差した課題分析を行い、ムラのミライがメタファシリテーションを手に、どこで、誰に、何を、どのように働きかけていくのか、今後の計画の策定につなげていく3年間にしたいと考えています。

2023年度以降も、スタッフや認定トレーナー全員が在宅勤務という現状に大きな変化はありません。今後3年間は、「話を聴いたこと」を共有・分析、行動計画を策定する際には、対面で、複数人が実際に会って話せる機会を定期的に作っていきます。

思えば、2020年以降のパンデミック、ロシア・ウクライナ戦争、深刻さを増す気候変動などなど、私たちはこれまで以上に先が見えない現状に直面しています。不透明で、不確実性の高い状況下で、詳細で綿密な中期活動計画を策定することは「空中戦」となりかねません。そこで、私たちは過去の経験を分析しながら、事実から抽出されたことを、その場その場で最適な方法で実行していく方式を選択します。そのような状態でも、過去の経験を振り返り、分析することを同時並行で続けながら、現状に最適な対処方法を見出していく、そんな3年間にしたいと思っています。


続いては、上記の中期方針や活動計画を実現するための組織運営について述べます。

目指したい組織

団体内外の仲間が元気に楽しく快適に、活動内容に集中できる状態を持続できる組織運営をめざします。

1.事業ごとのチーム制導入

長期的には、ムラのミライという団体を大きくしていくというよりも、メタファシリテーション認定トレーナーがそれぞれに活動を展開していき、そのプロセスで得られた学びや成果を共有するプラットフォームになるような組織形態を目指します。例えば、認定トレーナーが所属/起業する自律性の高い団体やグループを各地に増やしていくイメージです。 この3年間では、その形態をとるために必要な仕組みやルールを試行・策定していきます。具体的には、事業ごとに複数名のチームを組み、企画立案・資金調達を担います。事業の立案者及び事業の担い手を、ムラのミライが直接雇用するスタッフに限定することなく、認定トレーナーも提案・参画することを前提とします。また、認定トレーナー(及び認定トレーナーを目指す方)が学ぶ場として、ムラのミライによる直接雇用を増やすことに加えて、各事業に非常勤/ボランティアスタッフとして参画できるような機会を増やします。

2.ガバナンスと情報共有

現状、業務分掌と裁量権が明文化されていないこともあり、意思決定プロセスが曖昧な状態となっています。少数の担い手が全体として情報共有している体制なので、じっくりと内容を検討する余地を持てている一方、スピード感に欠け、また部分的に関わる人や新たに関わる人にとっては全体像が見えづらく、提案しづらい状態であることは否めません。

そこで、年度初めのタイミングで個々の事業ごとに業務分掌と裁量権を決定・確認することで、きめ細かい検討とスピーディな意思決定を両立させる状態をつくります。

また、規定類を見直して再編・修整することで、個別の事業チームが事務的な事項について検討しなくてはいけない局面をできるだけ減らすようにします。

一方、各事業チームが手がけている内容と、そこから得られた知見・経験を即時に共有できるよう、情報共有ツール(メール、チャット、ファイル共有、データベース等)と使い方を整理します。

以上のことについて、形式的・網羅的な決裁プロセスを導入したり、誰も読んだことのない規定や報告書を作成したりすることにならないよう、目的を明確化しながら取り組みます。

3.パブリックリレーションズと資金調達

現ホームページの一部を再構成する形で、各事業がアプローチしたい層への入り口となるページを作成します。活動実績や研修コンテンツ・教材をよりわかりやすい形で伝えるとともに、問い合わせの成約率・収益率を向上させます。

資金調達については、事業ごとに、①自主事業(講座、コンサルティング等)収入、②事業受託収入、③助成金を組み合わせて、複数年単位で資金調達計画を立てて実行します。

4.活動環境

スタッフ全員が在宅勤務を踏まえて、オンラインも含めた事務所の在り方を検討し、働き方についても、スタッフを初め、関わる人たちの負担をより軽減し、コミュニケーションがもっと容易になるような形にしていきます。今後は、日本国内においても必要に応じて、各事業の活動中心地に何らかの拠点を設けることを検討します。 まずは2023年度にこの中期活動方針・計画を適用し、2024年度下半期に見直し、2025年度に検証、次の3年間の方針・計画を策定します。

文責 原康子、宮下和佳


中期活動方針・計画に着手した経緯

8年ぶりとなる中期活動方針・計画

ムラのミライの中長期の活動方針は、2015年度の初め、当時の代表理事である和田信明が執筆した「NPO法人ムラのミライが目ざすもの」以降、現在まで策定されていませんでした。その後、何度か和田から、現在ムラのミライを担うスタッフによる中期活動方針策定の必要性を示唆されていたものの、手を付けることができないままでした。

2021年、ムラのミライの活動の軸となる方法論であるメタファシリテーションのなりたちを紹介する「メタファシリテーションができるまで」という動画を制作しました。続いて団体紹介の動画も制作しようという話になった際、動画制作を担当した理事とスタッフから「団体の今後の方向性を関係者で確認してからの方が良いのでは?」という指摘がありました。時を同じくして、現代表理事の中田豊一からも、「メタファシリテーションを手に、私たちは、どこにどう働きかけることができるのか。NGOの原点に立ち返り、それを改めて考え直す時期に来ていると強く感じています」という投げかけがありました(参照:2021年10月ニュースレター)。

しかも2023年は、1993年に団体を設立してから30周年を迎える節目でもあり、中期活動方針という形で今後の団体のあり方を言語化するには良いタイミングだと言えます。

最後の中長期の活動方針が出された2015年から2022年までを振り返ると、メタファシリテーションと名付けた方法論が私たちの予想以上のスピードと規模で、日本国内で活動する幅広い分野の方々から高い関心を持って受け止められ、そのことを受けて私たち自身も日本国内での活動の幅を広げてきた年月でした。

また、本部事務所を岐阜県高山市から兵庫県西宮市に移し、さらにはスタッフの入れ替わりやスタッフ各自の暮らしの変化、さらにはコロナ禍により、テレワークによる在宅勤務を基本とする活動形態に移行をしてきました。

そこで、2021年12月、このような実質的な変化を踏まえ、30周年を迎えるにあたり、懸案となっていた中期活動方針を策定し、2023年度以降の3年間の活動に優先順位をつけ、活動をよりスケールアップすることを団体として確認しました。2021年12月から2022年8月までに中期方針を、そして同年9月から2023年3月にかけて、中期計画を策定しました。

中期方針づくりに関わった「私たち」

経緯をお話しする際、まずはこの中期方針づくりを担った「私たち」についてお話したいと思います。この中期方針は、和田前代表、中田現代表というムラのミライの活動の根幹を創り上げたメタファシリテーション手法の創始者たちによって、作られたものではありません。

「私たち」は、この10年間、ムラのミライの事業や運営に、メタファシリテーション認定トレーナーとして、スタッフとして、理事や監事として、協働団体のカウンターパートとして、直接関わってきた者です。

和田と中田から直接メタファシリテーションを学ぶ機会が、たくさんありました。私たちは、彼らから学んだメタファシリテーションを他の人に伝える機会をだんだん増やしてきました。伝える相手が活動する分野は、国際協力、医療、福祉、ビジネス(人事、生産管理、マーケティング等)、教育など多岐にわたります。そして、その方たちからのフィードバックは、メタファシリテーションの有効性を私たちに確信させるものでした。しかも、その有効性の恩恵を得ていたのは、伝えられた側だけではありませんでした。実は、手法の伝え手である私たちも得ていたのです。

伝える&実践することで得た「メタ認知」がもたらしたもの

この手法を知った当初、私たちの多くが、この手法は「誰かを支援する手法」だと思っていました。しかし、伝え手である私たちは、この手法の日々の実践者でもあります。そして、その日々の実践は、特に自分の身近な人々(パートナーや子ども、友人、同僚など)とのやりとりが主なものになります。その結果、この身近な人々との関係が、どんどん楽なものになっていった、このことに改めて気づいたのです。

メタファシリテーションの「メタ」は、「メタ認知」からきていますが、まさにメタ認知によって、日々の実践の中で、私たち自身が自分と他との関係性を俯瞰することが可能になり、このような恩恵をもたらしたのです。メタファシリテーションとは、伝え手自身もある意味解放する、私たち自身を楽にする手法であったことに、改めて気づいたのです。

思えば、世界中で、この数十年間、社会も、その最小単位である家族も「個人化」していき、「孤立」は大きな社会問題となっています。この孤立した社会の複雑で多岐、多層にわたる課題を前に、メタファシリテーションを学んだ私たちは、課題を細分化、分析し、俯瞰することができます。また、1人でその俯瞰ができないときは、手法の普及過程でできた仲間に、いつでも聴いてもらえる安心感を持っていられます。

「誰かの課題を解決してあげる」のではなく、当事者としての立ち位置

中期活動方針を検討していく中で、私たちが挙げた解決したい社会課題は様々でした。

しかし、特にこの数年団体として直接、間接に関わった課題を列挙すれば、以下のようになります。

  • 孤立した子育てを共同養育へ
  • 家庭内/企業内でのコミュニケーション不全の解消
  • 地域住民主体の医療と福祉の実現
  • 困窮する人々、若者や女性、高齢者、子どもがただそこにいるだけでよいという居場所づくり
  • 地域住民による自然資源の持続的維持管理
  • 課題の起こっている現場からの政策形成

どれにも共通していたのは、コミュニティの崩壊、消滅の危機に象徴されるような急激な社会の変化に追いつかない政治、制度、さらには人々の意識と現実のギャップでした。つまり、こうあってほしい、こうあるべきという意識と、そうではない現実とのギャップです。こうしたギャップによって生じる課題は、決して他人事ではなく、外部者として関わるという立ち位置が多かった私たち自身も、紛れもない当事者だったのです。

そもそも、メタファシリテーションという方法は、「誰かの課題を解決してあげる」という立ち位置を使い手に許しません。「自らが当事者でもあり得る」という想定のもとに、あらゆる思い込みを排して、相手と自分の間にある「共通の課題を解決していく」という仕組みを内包しています。

次から次へと襲いかかる危機や、格差や分断によって孤立した個人。そんな状況だからこそ、個人と個人が、新たに緩やかなつながりを持ち、各自が囚われている一つ一つの思い込みを、仲間と一緒に解きほぐし、個人の持つ潜在能力を最大限に、引き出し合う暮らしを目指します。

それは、すでに崩壊してしまった地縁をもとにしたコミュニティの再生、またはその再定義をして、人と人が繋がることです。そのコミュニティがどのような位置づけかということは、団体の定款第3条に、以下のように述べられています。

定款第3条
この法人は、コミュニティと経済と環境が調和した状態の、人間の営みを実現することを目的とする。そのために、地域コミュニティが資源を維持、活用、循環させる仕組みや暮らし方を、創り出していく。その方法論を、生活の現場での活動を通して構築し、それを担い実現する人材の育成を行う。

ここで述べられている「資源」を自然資源に限定せず、社会資源を含むものとして捉え、目的の実現に向けて30年目のスタート地点に立ちたいと考えています。

「私たち」*五十音順
河合将生、菊地綾乃、久保田絢、ジヨップ素子、原康子、平野貴大、前川香子、松浦史典、宮下和佳、山岡美翔、大和陽子

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