第6号「指導員による研修開始・・・なるか!?」(2013年2月4日発行)

In 802プロジェクト通信 インド「水・森・土・人 よもやま通信 第2部」 by master


 

目次

1.  研修って何?
2.  教えるのではなく、考えさせる
3.  いつになったら始まるの?
4.  これがオラたちのスタイル
5.  村の人からのリクエスト
6.  準備は万端!?

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インドは暑い国でカレー三昧、というイメージがとても強いが、インドにも寒い季節はある。
カレー以外の食べ物も探せばある。
寒さについて言えば、今年は南インドでも例年より早く11月頃から気温が下がっていった。
12月から1月にかけては気温も湿度も落ち着く、1年で最高の季節。村では朝晩の気温が15度くらいになり、深い霧に包まれる。
毛糸の帽子や耳当てを着けて、カーディガンを羽織ったりして寒さを凌ぐのだが、裸足なのは変わらない。
インドの1年の内、唯一汗をかかないこの時期に、村の人たちは稲刈りをし、その作業の前後に指導員としての研修を受けていた。
今回は、その指導員たちにまつわるお話。

 

1.  研修って何?

前回(第5号)で、「流域管理を一緒にしていく仲間を増やそう」と、獅子奮闘した指導員たち。
近隣の村々に声をかけて、自分たちの活動成果の発表会を行い、「オラたちもそういう活動をしたい」と、新規参入する村人たちに見事言わしめた。
そこで、指導員がそうした村の人たちに研修をしていくためには、まずは指導員自身がソムニード(現ムラのミライ)から研修を受ける。
ソムニードの定番研修、指導員研修だ。

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まだ稲穂に実が付き始める10月から、指導員研修は始まった。
「みなさんとは2007年から一緒に活動していますが、2007年から今まで、何を学びましたか?」
と、にこやかにラマラジュさんが尋ねると、指導員たちはそれぞれ記憶に残っていることを口に出していく。
「え~っと、流域が3つのゾーンに分けられることとか、石垣の作り方とか‥」
「ボクは巻尺を使った距離の測り方が好きだ」
「アクション・プランの作り方も学んだ」
「では、その中で一つを選び、それについて説明してもらえますか?」

じゃぁオレが、と、一人の青年指導員が、どうやって流域を3つのゾーンに分けて考えるのかを説明する。
「どうやって、その知識を得ましたか?」
「え~っと、研修を受けたから」
「研修って、なんですか?」
「新しいことを習ったり、どうやって石垣を作るのかとか、スキルを得るところ・・・で良いかな?」
不安そうに答えるニイチャンに、周りの指導員たちが「そうだそうだ」と同調する。
「そうですね、研修では知らなかったことや新しい技術を学びますね。だけど、その学び方にも色々あります」
そしてラマラジュさんが黒板に次の文章を書いた。

【1. 聞いても忘れる】
【2. 見たら覚えている】
【3. やってみて解る】

読者のみなさんにも、この文章に見覚えのある方も多々おられることだろう。

そして【4.○○すると、使うようになる】という最後のセンテンスがあるのだが、これに関しては読者の方々にも考えていただきたい。
そして、ラマラジュさんが続けて指導員たちに尋ねる。
「この3つで、研修をする時に必要なのはどれだろう?」
「ぼくは、聞いても少しは覚えてるよ」とほほ笑む青年、モハーン。
「だから、聞くのとやってみるのが一番だと思う」
「オレは、見るのとやってみるの二つ」
「いや、3つ全部じゃない?」
ワイワイと言い合う指導員たち。
「ダンダシさん、たしか息子さんが町から帰ってきましたよね?」
と、指導員の中でも最年長の50代半ばの男性に尋ねる筆者
「いるよ。農業を仕込んでるんだけど、ヤツには真剣さが足りない」
「例えば稲作は、どうやって教えていますか?」
「ワシと一緒に田んぼに入って、牛の使い方とか肥料の撒き方を見せたりやらせたりしたさ。それに、どんな害虫がでてくるか、その時にどうすればいいか、話してきかせることもある」
「なるほどー。みっちり仕込んでますね。じゃぁみなさん、研修に必要なのは、ラマラジュさんが黒板に書いたものでどれでしょう?」
「やっぱり3つともだよ、キョーコさん」
「そう。モハーンが言うとおり、聞いても全てを忘れるわけではないし、ダンダシのように話して聞かせることも必要ですね」
と、後を引き継ぐラマラジュさん。

「だから、この3つのことを意識しながら、みなさんはこれから研修をしていってください。じゃぁ練習してみましょう。皆さんがこれまでに学んだことの中から一つ選んで、10分間『研修』してみてください。」

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2.  教えるのではなく、考えさせる

ということで、G・T・B・P村からのそれぞれの指導員たちは、村ごとにチームに分かれてトピックを選び、模擬研修をしてみることに。
たとえばG村が講師役で、他の指導員たちは、『流域管理のことなんて全く分からない研修初参加の村の人たち』という設定だ。
さすが2007年からソムニードの研修を受けて来ているだけあって、最初に自己紹介をしたり何時まで参加が可能か研修時間を訊いたり、という基本は押さえている。
そして一方的な講義口調ではなく、質問形式で相手とやり取りをするのも忘れない。
「どの指導員が、一番うまくやっていると思われますか?」
と聞いてくるショーコには、研修を受けている人たちの顔を見てごらんとアドバイスする。
一番堂々としゃべっているように見える指導員でも、『初参加の村人役』の人たちはつまらなさそうにしている。
実は、質問内容が固すぎたり説明が難し過ぎたりするのだ。
試行錯誤する指導員たちの中でもキラリと光るのが、B村の青年アナンドだ。
とても単調に穏やかに話す青年である。
「この前、いつお会いしましたっけ?」
と、まずは前回の復習から入るアナンド。
これもソムニード・スタイルの研修の基本。
「先週、あなたたちの村で発表会があった時に、聞きに行きました」
「そうでしたね。その中で、記憶に残っているものはありますか?」
「初めて、石垣の役割を知ったよ」
「植林をたくさんしてたよね」
と、『初参加の村人役』の指導員たちが答える。
そして次々と簡単な質問を投げかけ、自分の村の山の状態について思い起こさせる。

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「だからやっぱり、ぼく達も石垣を作りたい」と『初参加の村人役』。
「じゃぁ自分たちで作ればいいじゃないですか」と、アナンド。
この切り返しに、『初参加の村人役』たちもビックリ。
「ハイ、では一緒に作りましょう」
とはすぐに言わず、例えば本当に石垣が必要なのか、何が自分たちでできるのか、次にどのような研修が必要なのか、わずか10~15分の間で相手に考えさせるように促している姿は、もう第2のラマラジュを見ているようだ。
『初参加の村人役』の指導員たちがいつの間にやら真剣に考えているが、
「ちょっとちょっと、そんなことを考えるのは初めてじゃないでしょ?」
と内心ツッコミを入れる筆者たち。
こうして、どんな質問が答えやすいのか、どんな教材があったら分かり易いのか等々、指導員として意識すべきことを段階を経て身につけていった。

そして、新規参入の村人たちに研修をするぞー、と鼻息荒く、本題の流域管理コンセプトに入ろうとした途端、
「稲刈り前のお祈りが…」「稲刈りが始まって…」「お腹を壊して…」
と、指導員研修が次々と後倒しになっていった。

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3.  いつになったら始まるの?

事業地周辺の田んぼは黄金色に輝き、早いところでは11月半ばから刈り取り作業を始めている。
新規参入の村人にばったり会った時、そっと聞いてくる村のオジサン。
「あのう・・いつになったらワシらは研修を受けられるんじゃろうか?」

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新規参入の村人たち
同じような質問を、やはり同じような時期からチラホラと耳にし始めていた。
「どうしますか、キョーコさん。これは一度、指導員たちをせっついて、早く指導員研修を再開しないと村の人たちが研修を受けられないと言った方が良いかもしれませんよ」
と、ラマラジュさん。
「う~ん、私たちがそういうことを言っても、指導員たちは痛くもかゆくもないでしょうね。ここは、私たちじゃなく、新規参入の村人たちに、
『早く指導員研修を再開して、ぼく達に研修をしてよ』
と強く言ってもらいましょう。その為に、一度、稲刈り作業が落ち着いたら、指導員たちと新規参入の村人たち、全員にまた集まってもらいましょうか」

そうして色々仕掛けをして、1月下旬に合同ミーティングを開くことになるのだが、その前にとある訪問者を迎えた。

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4. これがオラたちのスタイル

1月半ば、待ちわびた訪問者が村まで訪ねて来てくれた。
この事業を一緒にしている、JICA(国際協力機構)中部国際センターからカトウさんと、インド事務所からクギタさん。
今、一番脂ののっているB村を訪問した時には、B村近隣の新規参入組の4か村からも、4~5人ずつやって来た。
大きな木の下にビニールシートや茣蓙を敷いて、カトウさんやクギタさん、筆者たちを入れて総勢40名近くが、その上に直に胡坐をかいて座る。
どの村からも、20代30代の若者たちが多数を占めており、全体的に活気がある。
そしてそれぞれの村について、紹介してもらうことになった。
「えぇ~、何について話せばいいの?」
と戸惑うニイチャン、オッチャンたち。

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そこへ、おもむろに立ち上がってシートの隅から真中へズイズイと移動してきたのが、B村の指導員たち4名だ。
当たり前のように、今までカトウさんやクギタさんが座っていた真ん中の場所に移動してきて、あれよあれよとカトウさんとクギタさんは隅に追いやられる。
そして、彼らの生活言語であるサワラ語で、何をどのように発表すればいいのか、モハーンやアナンドたちが指導し始めた。
「スゴイですね。ソムニードではなく、彼らが自然に前に来て、新しい村の人たちを指導しているなんて」
と、カトウさんもビックリ。
そして、それぞれの指導員たちが各村の発表準備の手伝いをして、いざ発表。
「ぼく達の村は25世帯で、あまりお米が採れません。果樹もそんなにないし、野菜もあまり育たないです」
「ぼく達の村は、家畜もいて井戸もあります。だけど、夏にはほとんど水がありません。川も夏は水が枯れます。山には木がありません」
「あのね、無い無いばっかり言ってないで、何があるのかを言ってごらんよ」と、モハーン。
そして次の村の発表では、誰一人として文字が読めないため、指導員が手伝って書いた紹介事項のリストが読めない。
最初は指導員が代わりに読み上げようとしたが、結局は指導員が小声で伝え、それを村のニイチャンが大きな声で発表することになった。

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「ぼくたちの村は、カシューナッツの木だらけです。お父ちゃんたちが若い時に植えたから、もう20年近く経って実もならなくなったし、木の下はカシューナッツの枯れた葉が邪魔をして、他の植物が育ちません。このままだと、移住するか、全部の木を切り倒すしかないと思っています・・・」
内容は悲壮的なのに、発表しているニイチャンは、対照的にとても朗らかに言うのでジョークにさえ聞こえてくる。
このエリア周辺の共通の課題として、筆者たちも認識はしているのだが。

そして次に、
「それらの今『困っている事』に関して、何をしなければならないと考えているのか、教えてくれますか?」
とソムニードから水を向ける。
さらに指導員が入って、各村ごとに話し合い、発表する。
どの村も、やはり今までに何かをしてきた訳でもなく、今特別に何かを考えているわけではない。
そして件のカシューナッツだらけの村の発表では・・・
「カシューナッツだらけなんですが、もうどうしていいかわかりません。教えてください」
やっぱり、とても素敵な笑顔で発表する。
クギタさんがさらに突っこんで聞くと、5~6年前から実らなくなり、毎年、切ろうか移住しようか、いやまだ待とうと悩んできた、とのこと。
「指導員による研修で、これから彼らがどんなアクションを取るのか、今後が楽しみですね」
とクギタさん。

最後にはB村からモハーンが、この事業を始める前の状況から事業中の活動について、自分たちが何を学んでどう変わったのか、意気揚々と語った。
「最初は自分一人だけで研修に参加していたとか、直に経験談を聞けるのは楽しいですね。それに、やっぱりB村とこれから活動を始める他の村々と、話し方が違いますね」
と、カトウさん。
次回来ていただく時には、カシューナッツだらけの村はどうなっているのか、そして指導員たちがどこまで成長しているのか、色々と楽しみを見つけつつ、カトウさんとクギタさんもB村を後にした。

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5. 村の人からのリクエスト

そしてやって来た指導員たちと新規参入の村々との合同ミーティングの日。
稲刈りは終わったけど、次にはホウキ草の刈り取り作業が待っている1月下旬。
B・G・T村からの指導員11名中8名と、新規参入8か村から合計32名が集まった。
「みなさんこんにちは。私はソムニードの職員で、キョーコと言います。私のテルグ語は分かりますか?」
と、尋ねる筆者。(テルグ語は、この州の公用言語)
2007年から一緒に活動しているB・G・T村の人たちは、私のテルグ語のクセにも慣れているため、言わんとしていることは分かってくれている。
しかし、新規参入の村の人たちは、生活言語がサワラ語だったりオーリヤ語だったりと、テルグ語に慣れていない人たちもあるため、余計に私のテルグ語は分かりにくかったりするのだ。

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すると、私の横にドカッと座ってきたのがモハーンだ。
「大丈夫です、キョーコさん。ボクが、サワラ語にも通訳しますから」
と、今までになく積極的に研修に関わってくれる。
しかも、指導する側として。
32名の内、黄門さまによる研修(通信第5号を参照)に参加したのは10名にも満たなかったため、もう一度似たような頭の体操をすることにした。
新規参入村にはエリアごとにチームに分かれ、指導員から学びたいことを制限なしでリストアップしてもらい、そして指導員は一チームとなって、指導すべき項目を指導順にリストアップする。
指導員もこのリストアップ作業はすでにしているのだが、2か月以上経っているため、やはり覚えていないが、さすがに記録は取っていた。

どのチームもうんうん唸ってリストを仕上げて、お互いに発表する。
「植林がしたい」「野菜の収穫量を増やしたい」「石垣を作りたい」「水が足りない」
といった単なる欲しいものリストから、
「山頂から土が流れていく原因を知りたい」「そしてその土の流出を止める方法を教えてほしい」
と少し具体的になったものまで、さまざまだ。

そして指導員たちによって、研修項目のリスト案が読み上げられる。
「(1)流域とは何ぞや、(2)村にある資源の調査、(3)植物資源の記録づくり・・・」
と全部で11項目。
しかも、すべての項目について、1回の研修でできるわけではない。
「みなさんが研修してほしい、と思っていることは、今のリストの中にありましたか?」
「いつくかはありましたよ、キョーコさん。だけど、ワシらが一番したい石垣作りは、どこにあるんじゃろ?」
と、新規参入組の中の最高齢のリーダーが不安げに聞いてくる。
「どこですか、スレシュさん?」
と、この村を担当するG村の指導員に質問を投げる。
「はい、石垣とか何かを作るのは、この7番目の『アクション・プラン作り』についての研修をした後ですね」
「えっ!?最初から作れないの?」
「ちなみに、8つの村の皆さんが、石垣とか植林とか何かを作ったりするために、220万ルピーの予算がすでに確保されています」
と、告げる筆者。
「220万ルピー・・・!!」
一気に目が輝くオッチャン達。
もしこれが映画なら、オッチャンたちの目には、ガンジーの顔が映し出されていることだろう。
(インドの紙幣はガンジーの肖像画が使われている)
同じような光景を、数年前にも味わったなぁとデジャブを感じるラマラジュさんと筆者。
そして面白そうに眺めているショーコ。
「じゃぁ、4月からそのお金で石垣が作れるのかの?」
と、筆者たちを通り越して、指導員たちに聞くオッチャン。
「え~と、その~、先ほども言ったように、それまでに色々と研修があるので、4月からはムリかと・・・」
「じゃぁ、いつになったら研修を初めてくれるの?」
と別の村のニイチャン達も聞いてくる。
お互いに顔を見合わせる指導員たち。

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6. 準備は万端!?

「それでは、指導員たちにしろ研修を受ける皆さんにしろ、いつ研修を実施できるのか、あるいは受けられるのか、お互いに可能な時期を調整しましょう」
とラマラジュさんが提案する。
そして、各村ごとに、今年の2月から12月まで、1か月の内どれだけ研修に時間が割けそうか、あるいは全く無理なのか、農作業も考慮しながら「年間スケジュール表」を共有した。
やはり田植えの季節である8月は、指導員も村の人たちも研修可能日数はゼロである。
指導員チームも、G村やT村は8月以外にも研修可能日数がゼロの月が何回かあるが、B村はそういう時でも動けそうだ。
もちろん、その時の天候や雨量次第でこのスケジュールも変わってくるが、例えばG村やT村の指導員の代わりに、B村からそのエリアに指導員が赴いて研修をしよう、ということも、この場で共有できた。

そして、今までのらりくらりとはぐらかしてきた指導員たちも、今回きっちりと、村の人たちと第1回目の研修日時と場所を決めた。
「ということで、指導員研修もお願いします」
と、筆者たちともみっちりスケジュール調整をした指導員たち。
さて、無事にその日に研修が始められるのか。
指導員たちはどのような研修を展開してくれるのか、次のご報告を乞うご期待。

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インド地域づくり募金1

注意書き

ラマラジュさん=ソムニード・インディアの名ファシリテーター。よもやま通信第1部からおなじみ、事業に欠かせないスタッフの一人。

【4.○○すると、使うようになる】
この答えは、中田豊一・和田信明 共著「途上国の人々との話し方~国際協力メタファシリテーションの手法」の中に。

筆者=キョーコ=前川香子。この通信の筆者で、プロジェクト・マネージャーを務める。

ショーコ=池崎翔子。体験することすべてが新鮮なその眼を通して書いたエッセイ、「インドつれづれ」もどうぞご覧ください。

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