第3号「オラが村の調べ物」(2012年4月26日発行)

In 802プロジェクト通信 インド「水・森・土・人 よもやま通信 第2部」 by master

 

目次

1.  最初のステップ
2.  調査と未来のお嫁さん
3.  生物多様性、名前もいろいろ

昨年度の雨が少なかったせいで、今年のカシューナッツやマンゴーの花の付き具合がよろしくなかったアーンドラ・プラデシュ州農村部。
花があまり咲かないということは、実もならないということで、村の人以上に筆者も困ってしまう。
45度を超える暑さが続く夏を耐え抜くためには、マンゴーが必要不可欠。どうなることやら。

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1.  最初のステップ

さて、段々と昼間の研修は受けづらくなってきたこの季節、村の人たちの頭と身体にしっかりと刻み込まれた「流域」という概念だが、村の人たちも気になりだした「次のエリア」。
「流域って何ですか?」
と問うと、身体を使って説明するのが、村の人たちの定番。
「トップゾーン(水源域)は頭で、だから髪があるように木が必要になります。胸からお腹にかけてがミドルゾーン(集水域)。腰から下はローワー(lower)ゾーン(裾野)で、足の方は田んぼになります。この頭から足の先までを流域と言います」

「今まで皆さんが行ってきた流域での活動は何で、どこで行ってきましたか?」と問うとアレやコレやと口々にする。
そして次の質問を待たずして声にする村の青年。
「だから、後は『足』の部分で何かをしなければいけないと思います」

「何かって何?」と聞くソムニード(現ムラのミライ)スタッフに、
「さぁ・・?」と首をかしげるオニイチャン。

「2007年にソムニードとJICAと、この流域管理事業を始めた時、皆さんはまず何をしましたか?」
「植物図鑑を作りました」
「いきなり図鑑を作ったの?」
誰が村に来て、何をしゃべって、どこを歩いて、とひとつ一つ思いだしていくと、
「そうだ。自分たちの村に、どんな植物があるのかを調べたんだ」
そしてそこから、何が村にあってどんな状況にあるのかを知って、アクションプラン作りになったんだ、と嬉しそうな村の若者達。
するとすかさず発言する、頼もしいG村の青年リーダー、ガンガイヤ。
「次も、足の部分にあたる所に何があるのかを、まず調べないといけないですね」
「何って、田んぼだべぇ」というオッチャンに、若者たちが反応する。
「田んぼに何を植えているか、ということ?そもそも村の田んぼの面積はどれだけあるのか、僕は知らないなぁ」
「田んぼ以外にも、裾野から下の方にはため池があって、家があって、お寺もあるし、畑もあるしなぁ」
「家畜もいるから、家畜についても調べたらいいんじゃない?」
「そしたら、牧草地も入るのか?」
(お、良いところに目をつけた!)と心の中で拍手する筆者たち。
「いやいや、牧草地は裾野のゾーンじゃないし」
(お、ちゃんとゾーンのことも考えてる!)と感心する筆者たち。
あぁだこうだと調査項目を決めていく村の人たち。
確かに、牧草地は山の中腹にあったりするけれど、これから取り組むべき課題でもある。
但し、この時点では村の人たちに、とことん話をさせて、こちらから「この事を調べましょう」とは言わない。
言わなくても、「裾野にあるモノ/そこで今活動していること」から外れずに考えていけば、すでに植物調査を経験している彼らのこと、筆者たちが考えていることとそう大して違いは出ない。
ただ、そこから何を気付けるか、という過程にソムニードのスパイスが加わる。
(そこが筆者にとっては重責なのだが…)

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そして決まった調査項目。
村の世帯数、人口、その内何人が、出稼ぎやら寄宿学校やらで村の外に出ているのか、家畜の数、といった基本的な項目から、家族ごとで政府スキームに2011年度に何日間従事したか、毎月の配給制度で受け取る品物や量、田畑・果樹園の耕作面積なども、調査担当の村人が家を廻って記録することに。
村全体で集まって調べるのは、栽培作物(自家消費作物と換金作物)、採集作物、耕作地別の農作業カレンダー、水の利用状況、放牧状況など。

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2.  調査と未来のお嫁さん

世帯ごとに聞いて回る調査は、フォーマットも村の人たちで決めて、担当者が各家を廻る。
日本の農村地と違って、隣りの家まで数十メートルということはなく、長屋のごとく家が隣接しているのが南インドの農村地。
各家を廻るのもそう時間はかからない。
数日経って、調査をしたのか、どのように調査をしたのかを知るために、P村に行った時に、その辺のオバチャンをつかまえた。

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「ナマステー。最近、何か調査をしてるらしいけど、あなたの家には誰か来たの?」
「あぁ、配給カード更新のための政府の調査のことかい?」
「あら、そんな調査もやってるのですね。それとは別に、あなたの村の人も調査をしてるらしいのですけど。」
「あぁ、もしかして、チャンドラヤのことかい?そういえば家に来たらしいね」
「あなたはその時いましたか?」
「いや、いなかったけど、うちのダンナから聞いたよ。家族構成とかその内何人がこの家に住んでいるかとか、牛が何頭いるか、鶏を飼ってるかとか、あと、田んぼや畑の面積を記録するからってことで、帳面も見せたらしいよ」
「そうなんですか。ダンナさん、ちゃんと話をしてくれるのですね。良いですねぇ」
「っていうか、こうこう答えたけど合ってるよな?って確かめてきたのよ。うちのダンナは家の事を知らなかったりするからねぇ。あはは」
そして別の日。
T村で、すでに記録された調査フォーマットを見て、記入漏れなどが無いか確認していると、ある世帯の調査表で不思議なことを発見。
「あれ、ブッチャイヤさんってもう結婚されたのですか?」と近くに居たオッチャンに聞く。
「いや、まだじゃのう?」
「でもここにお嫁さんらしき人の名前がありますよ?」
「この間、結婚する事が決まって相手の家族に会ってきたとは聞いたけど、よっぽど気に入ったんじゃのう」
え、そういうこと?と首を傾げるソムニード一同。

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(T村の調査担当者を捕まえて)
「ブッチャイヤさんの家には、このお嫁さんはもういらっしゃるのですか?」
「いや、まだです」
「じゃぁどうしたら家族構成に記入できるのですか?」
「ブッチャイヤが、書いてくれって嬉しそうに言うから・・・それに、もうすぐホントに結婚するし」
何じゃソリャ、と脱力する筆者たちを代弁するかのように、
「そしたら、将来の子どもの名前も書いとけー」
と別の青年がツッコミを入れてくれる。
苦笑いしながら担当者は
「もう一度ブッチャイヤの家の調査票を作り直します」
とスゴスゴと去っていった。

似たようなことが、政府が実施する調査にも当てはまる。
P村のオバチャンが言っていた「配給カード更新のための調査」等で職業について聞かれると、あまり村の人は「農業/農家」とは答えない。
お役所に雇われて町から来る人は、パリッとしたシャツにズボンを履き、サングラスをかけてバイクに乗ってさっそうと村に入ってくる。
そして椅子にデーンと腰掛けて、いきなり調査を始める。

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村の人たち(特に青年たち)の中には、そういう「外から来た一見さん」に対して少しでもカッコ良い姿を見せたくなるものなのか、職業に「Land Developer」と答えていたりする。
そして調査担当者も何の疑いもなくそのまま記入する。
畑を耕すのも土地開発か?と微笑ましく思ったりもするが、そうした記録を見ただけでは、「P村にはLand Developerが15人もいる」のか、スゴイなー、となってしまう。

調査ひとつにしても、正確な情報を知るためには、村の人たちと関係を作ることから始まる様々なプロセスが要るのだ。

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3.  生物多様性、名前もいろいろ

そして村全体で農作業カレンダーなどを調べる作業を始める前に、

P村、G村、T村、B村から何人かが集まって、調査方法や書き込み方などの準備をした。
彼らの中には、山岳少数民族のサワラ語という言葉でしか知らない植物もあり、また、同じサワラ語でもG村とB村では微妙に違っていたりする。
P村はサワラ語を話さず、アーンドラ・プラデシュ州の公用語、テルグ語しか理解できない。
そのテルグ語もなまっていたりするのだが。

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その日に準備した調査項目は、「牛のえさになる植物について」
農業については、あらかじめ農作物の写真や絵をこちらで準備できるのだが、牛のえさについては筆者たちも皆目見当がつかないため、葉っぱや枝を採って来てもらった。
この日は、それぞれの草などが、何月から何月まで採集できるのか、ということをカレンダーに落とし込む作業をしたのだが、名前を確認するだけでひと作業。

「この植物は、サワラ語で××と言います」(G村)
「ちがうよー。×○×だよー」(B村)
「何言ってんだ、××だろう。山奥に住んでるから、ちゃんとした名前知らないんだよ」(G村)
いやいや、G村も立派に山奥の村だし・・・と心の中でツッコミを入れる筆者たち。
「これは、テルグ語では△△ですね」(T村)
「違う違う、テルグ語では△○って言うんだよ」(P村)
「間違ってないよー。△△で合ってるよー」(B村)
「田舎者のテルグ語はナマってンだべ」(P村)
いやいや、P村のあなたたちも立派な田舎者ですから・・・と
またまた心の中でツッコミを入れる筆者たち。

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なんだかんだと言いながら、こうして採って来てもらった葉っぱや枝は標本にして、後日、植物の専門家から学術名などを教えてもらう。
そうすることで、適切な種の最終方法や植林方法を調べることもできるのだ。
ツッコミ所満載な作業だったが、なんとかフォーマットやら調査方法やらの準備も最低限整った。
何をしているのかを共有するためにも、限られた人だけでなく、なるべく大ぜいの村人が参加した方が良い、ということになり、調査日を設定して、お昼ご飯も流域管理委員会で準備することになった。
果たして、どのような珍回答が出て、どんな結果が出てくるのか…
筆者自身がとても楽しみな今回の調査。
そして忘れていはいない、前回から続く植林の再挑戦。

次号に続く!

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