第18号「オラがミミズたい肥づくり名人」(2015年2月23日発行)

In 802プロジェクト通信 インド「水・森・土・人 よもやま通信 第2部」 by master


目次

1. ミミズたい肥づくり始めます
2. ちょっとトイレに行ってきます。
3. よく肥えた土ってどういう土?
4. オラがミミズたい肥づくり名人
5. 広がり始まる農業カイゼン

2月に入り肌寒い朝が続く季節も束の間、南インドの夏がゆっくりと近づいてくる。

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1. ミミズたい肥づくり始めます

前回のよもやまでお伝えした、農業カイゼンに取り組むB村とP村の村人たち。そして、そのB村とP村の指導員たちから流域管理技術の研修を受け、計画づくりとその実施を行う新規参入の村人たち。新規参入の村人たちの中から、お隣のB村やP村の農業カイゼンの様子をみて、オラたちも農業カイゼンに取り組みたいという声が上がってきた。
新しく農業カイゼンへの興味を持ち始めた村々では、その一環としてミミズを利用した有機たい肥づくりに挑戦する。村人たちは、すでにたい肥をつくって利用しているB村とP村の村人たちからその極意を学び、彼らの村でも実践を始めることになった。B村とP村での有機たい肥づくりの視察研修を前に、まずは事前研修を行った。
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2. ちょっとトイレに行ってきます。

事前研修を任されたのはラトナスーリー筆者。3人で研修の進め方と内容について話しあう。
「前回までの研修で学んだことを確認して、それからミミズたい肥づくりを始める目的を明確にして、たい肥について現時点で知っていることを共有して、今度の視察研修で学びたいことを確認して、それで最後にスケジュールを決める。こういう流れで行きましょう。」
と3人で合意して迎えた当日、
「今までどんな活動をしてきましたか?」
研修が始まり、これまでの活動について尋ねるスーリー。これまでの活動を振返る村人たち。
「アクションプランを作って、それを基に石垣をつくったり植林したりしました。」
「それでどんな成果がありましたか?村ごとに発表してください。」
参加者たちが村ごとに話し合って発表する。ラトナが黒板に表を描いて、そこに出た意見を書いていく。
バルダグダ村からの参加者が言う
「土壌の流出が防げて多くの作物がとれるようになりました」
ラトナが黒板の表を埋める。
そして、パンドラマヌグダ村からの参加者が言う
「土壌の流出が防げて多くの作物がとれるようになりました」
ラトナが黒板の表を埋める。。
そして、アナンタギリ村からの参加者が言う
「土壌の流出が防げて多くの作物がとれるようになりました」
ラトナが黒板の表を埋める。。。
そして、コッタグダ村からの参加者が言う
「土壌の流出が防げて多くの作物がとれるようになりました」
ラトナが黒板の表を埋める。。。。

異口同音に質問に答える村人たち、これではまったく活動の振返りになっていない。『この流れはマズい』と、思う筆者だがどうしたらいいかもわからない。ただこの上滑りした議論が続いてしまう。どうすればこれを止められるのか、そして、果たしてどうやってここからミミズたい肥につなげていけばいいのか。
焦るが何もできない筆者、質問を続けるスーリー、黒板を埋めるラトナ。
すると、一人の村人が立ち上がった。
「ちょっとトイレに行ってきます。」
それに続いて他の村人たちもぞろぞろとトイレに立つ。そう、村人たちにとってこのやりとりは退屈で仕方がなかったのだ。研修序盤からつまずきムードが漂う。。。

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3. よく肥えた土ってどういう土?

これまでの研修の流れを見てその状況を見かねた和田代表の助言で、『土』と『ミミズ』についてそれぞれ知っていることを書き出してもらう作業をすることになった。元々、筆者たち3人組の計画では、『ミミズたい肥』について知っていることについて聞く予定だった。ミミズたい肥の研修だから、ミミズたい肥について知っていることを聞いても良さそうだが、この二つの質問は全く意味が違う。
30分後、『土』『ミミズ』という質問に対して、村人たちは、土とミミズのことではなく、ミミズたい肥について知っていることばかり挙げた。
そう、これは明らかに私たちがたい肥づくりの研修だ、たい肥づくりの研修だ、としつこく押し付けてしまったせいである。
そして、おそらく私たちが最初から「ミミズたい肥」について知っていることを聞いていたら、この村人たちの答えを基に、「では知らないことは、P村やB村の先輩たちに聞きましょう」という流れになっていたに違いない。
しかし、そもそも土とは何か、ミミズとは何か、どういう働きがあるのか、ということがわかっていなければ、たい肥がなぜ必要なのか、ということもわからないままである。必要性がわからないまま作り始めたら、後はどうなるのだろう?
村人たちが作業を終えて発表すると、和田代表が立ち上がる。
「おまえさんたち、たい肥をつくるということじゃが、よく肥えた土ってどういう土か知っているかい?」
「えぇーと、作物がよく育つ土。作物にとって良い食べ物がある土です。」
「それじゃ、作物にとっての食べ物って何じゃい?」
「・・・」
「例えば森の土を思い浮かべてみなさい。森には色々な草や木があって水がある。森の土にはたい肥は必要かい?」
「必要ないです。」
「土は植物が住むところで、栄養と水を含んでいる。その栄養は植物から来ているんじゃ。葉っぱは落ちた後どうなる?」
「乾燥して、虫が食べる。」
「雨季にはだんだん腐っていく。」
「誰がその葉っぱを腐らせているんじゃい?」
「水!!」
「おまえさんは水を飲むと腐るのかい?水を溜めているバケツは腐るか?」
「・・・バクテリアかなぁ?」
「そう、バクテリア。バクテリアはきみらと同じ生き物じゃ。じゃあ生きているってどういうことだい?生きるためには何がいる?」
「食べ物!!」
「そうバクテリアもおまえさんたちと同じように食べて糞をする。その糞が土の栄養分になるんじゃ。バクテリアがどれくらい小さい生き物が知ってるか?」
「うーん。。。」
「1立方センチメートルの土には、1億匹のバクテリアが住んでいる。つまり土そのものが生き物みたいなもんなんじゃ。植物がバクテリアに栄養を与えて、バクテリアが土の栄養分をつくる、そしてその土でまた植物が育つ、これが切っても切り離せない植物とバクテリアと土の関係じゃ。」
さっきまで退屈そうにしていた村人たちも、この研修を聞き入っている。

「それじゃあ、またたい肥の話に戻るが、森と農地の違いは何じゃ?」
「森にはたくさんの種類の木や草があります。」
「森は整備されてないけど、農地は整備されています。」
「整備されているっていうのはどういうことじゃい?」
「えーと、森では色々な植物があるけど、農地では何種類かの決められた作物を育てます。」
と、今までの研修で一度も自分から口を開いたことのないコッタグダ村のおっちゃんも今日は積極的に発言する。和田代表が続ける。
「そう、森では色々な植物があってそれぞれ違う時期に枯れるから、常に土がつくられ続けている。しかし農地では作物ごとに植えているし、枯れる前に取り除くから土が出来ない。つまり作物は土から栄養を取るけど、土に栄養は返さない。だから農地では意識的に作物が取った分の栄養を返す必要があるんじゃ。
さっき説明した植物とバクテリアと土の関係は覚えているかい?この循環を意識的につくるのがたい肥の役割じゃ。しかし、森で土が出来るのに時間がかかるように、バクテリアだけでは土が出来るのにすごく時間がかかる。だからミミズの助けをかりて、バクテリアが食べ物を消化しやすくすることで、土が出来るまでの時間を短縮する。それがミミズたい肥ということじゃ。」
退屈しのぎにトイレに行っていた村人たちも、和田代表の研修は食い入るように聞いている。そして、なにより、参加者全員が楽しそうに質問に答える。テルグ語が苦手で普段は研修で喋るのを躊躇しているような参加者さえ和田代表の研修では口を開く。
和田代表の研修のあとで、村人たちは視察研修で学びたいことを確認した。「土」と「ミミズ」という意識があるからこそ、「ミミズたい肥」のつくり方を学ぶのではなく、農業カイゼンのためにミミズたい肥について学ぶという意識が生まれてくる。なぜなら、村人たちは土が重要なことを誰よりもよく知っているのだ。
そして、農業カイゼン、ミミズたい肥づくりもまた、流域管理の一部なのだ。植林や石垣など構造物の構築を通した森での土づくりと、農地での土づくりの違いが、ミミズたい肥づくりと流域の関係ということ、この部分はこれから何度もつついていくことになるだろう。

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4. オラがミミズたい肥づくり名人

和田代表の研修を経て、事前準備はばっちりの村人たち、今度は農業カイゼンの先輩であるB村の農家を訪ねて研修を受ける。B村での視察研修当日、たい肥づくりの指導員は村のなかでも特に熱心に農業に取り組むチランジービー。昨年P村が農業カイゼンの視察でB村を訪れた際にも農業カイゼンの普及に中心的な役割を果たした青年である。
そして、流域管理研修の指導員としておなじみのアナンドも加わる。
たい肥小屋の大きさや、たい肥づくりに必要な素材や道具などを丁寧に説明するチランジービー。葉っぱは苦みのないものを選ぶだとか、小屋は日の当たる場所に建ててはいけないなどのつくり方の部分と、牛糞など他の肥やしと比べて使い勝手が良いことや、土の質を高めることができることなどの、利用方法や効果まで漏れなく解説する。そして、一通り説明をすると

「さぁ、オラがいま説明したことを言ってみて。」
と、参加者の理解度を確認しながら研修を続ける。その姿は、まさに名人と呼ぶのがふさわしかった。
「ミミズはどこで手に入れるの?」
と参加者に聞かれれば、
「オラのミミズを売ってやるから安心しろ。」
と、しっかりと商売も意識している。彼は今までもミミズたい肥やバイオ農薬(化学薬品を使わない農薬)を作り、自分の農地で利用し、そして他の農家たちにも販売している。今まで店から化学肥料を買ってきていたころのような出費はもういらない。それどころか、今度は自分のもつ資源を利用してお金を稼ぐまでになっている。
B村で一目置かれるチランジービーは、他の村の人たちにとっても、モデル農家だった。研修が進むと少し違うトピックの質問も出てくる。すると、チランジービーは、
「まずはこの説明を終わらせてから、その話をすっぞ。」
と、参加者が混乱しないように一つ一つ順を追って説明する。事前研修の後でキョーコさんから、この視察研修で見落としてはいけない重要ポイントのアドバイスをもらっていたモニタリング担当の筆者たちだったが、チランジービーは重要な点を見落とすことなく進めていく。それどころか、ミミズたい肥づくりの研修をこえて、農業カイゼンの研修になっていく。
SRIについて、バイオ農薬について、牛糞や牛尿を利用した液肥について、チランジービーと参加者たちの熱い議論は続く。
「でもオラたちの村では、耕す田んぼを2年ごとに代えていくから、これを続けていくのは難しいな。」
コッタグダ村の村人がつぶやいた。
「それなら今度はお前さんたちが、次に田んぼを耕す人にこのやり方を教えてやればいい。」
チランジービーはそう答えた。
「オラはミミズたい肥づくりの最初の研修には参加しなかった。でも(自ら試行錯誤を繰り返して)今ではこうやって自分が研修する側になったんだ。」
チランジービーの顔は自信に満ち溢れていた。農業カイゼンへの挑戦も2年目を終えようとしているB村、その成果は個人の農業カイゼンを超え、村の農業カイゼンになり、そしてそれが今度は地域全体の農業カイゼンにつながっていく。彼はきっとこれからも先頭をきって走り続けていくに違いない。

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5. 広がり始まる農業カイゼン

先輩農家たちからたい肥づくりについて学んだ村人たちは、さっそく準備を始めている。チランジービーたちの指導に基づいて、たい肥小屋の建設を終え、いよいよこれからミミズたい肥づくりが始まる。この研修で学んだ、他の農業カイゼンの技術もこれから実践していく農家は増えていくだろう。流域管理技術に続き、広がりはじめた農業カイゼン、これからの進展の様子はまた次回以降のよもやまで乞うご期待。

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注意書き

ラトナ=ソムニードインディアのスタッフ。オバチャン相手に長年の研修経験を持つオバチャン。
スーリー=ソムニードインディアのスタッフ。長年の現場経験をもつ。
筆者=實方博章。現場で修行中。
キョーコさん=前川香子。ムラのミライの名ファシリテーターで、本事業のプロジェクトマネージャー。流域管理プロジェクトの他にも研修事業から出版事業まで全てを統括するスーパーチーフ。

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