第16号「規定づくりは難しい」(2014年12月2日発行)

In 802プロジェクト通信 インド「水・森・土・人 よもやま通信 第2部」 by master


目次

1. 流域管理委員会の設立
2. 作戦会議
3. 再びの研修、そして実施
4. VVK登場
5. 規定づくりは難しい
6. ここが出発点

1. 流域管理委員会の設立

前回のよもやま通信でお伝えした農業カイゼンに活躍するブータラグダ村(以下B村)、ポガダヴァリ村(以下P村)の村人たち。
その二つの村の指導員たちは農業カイゼンに精を出す一方で、流域管理の技術を周辺の村人たちにも伝えるために奮闘している。

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各村の現状を振返り、これから村全体で流域管理の活動を続けることを決めた新規参入の6つの村では、流域管理委員会の設立が始まった。
それに伴って、各村で流域管理委員会の活動方針となる規定づくりの研修とアクション・プランの作成が行われた。

出来上がった規定を指導員と共に振返りを行い、それをもとに改善のために指導員が研修を行う。
そして、その規定を基にアクション・プランをつくり実施を始める。
その実践を基にまた規定づくりの振返りと研修を行う。
研修と振返りを繰り返し、流域管理委員会の規定の完成に向けて村人たちと指導員たちの努力が続いている。

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2. 作戦会議

村の現状を知るためのミーティングに参加して、P村の指導員のパドマはあることを気にしていた(よもやま通信第14号参照)。

それはミーティングに参加している女性が極端に少ないということ。
そして、参加していても積極的に発言をしている女性はほとんど見られないということ。唯一の女性指導員として活躍するパドマだからこそ、他の指導員たちよりも女性の参加に対する意識が強く芽生えたのだろう。
指導員研修や、P村での研修の際、パドマは誰よりも積極的に発言をする。そんなパドマを見ていると、はじめから彼女だけが特別だったような気さえする。
しかし、パドマ自身も自らの努力によってP村や新規参入村の村人から認められるようになったのである。

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もう一つ忘れてはいけないのが、家長の研修への参加を促すことだった。各家庭から一人ずつ研修に参加する場合、家長であるお父さんではなくお母さんや読み書きの出来る息子が参加する場合も多い。
女性の参加者が増えたり、若い世代が先頭に立って流域管理の活動を進めていくのは、村の今後にとって喜ばしいことである。
しかし、流域管理委員会の規定づくりのように、村全体のことを決めるには女性たちと青年たちだけでは話がつかないということもある。このため、今後の研修では特に女性と家長の参加をバランス良く促すことが決まった。

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3. 再びの研修、そして実施

まず行われた規定づくりの研修では、B村、P村の指導員が自分たちの村の規定を参考に、流域管理委員会の目的、その目的を達成するための具体的な活動、管理委員会のメンバーや責任者の選出方法などを規定としてまとめられた。
「流域を管理する」「一年中水を使えるようにする」「農業の改善を行う」などの目的が掲げられ、そのための活動として植林や石垣など構造物の設置、委員会の資金確保のため会費や、収穫の一部寄付などを定めた。

そして、行われたアクション・プランの研修。
6つの新規参入村にとって今回のアクション・プランづくりは、二度目の経験。それもあって、アクション・プランづくりそのものはさくさくと進む。
しかし、流域管理委員会がまだなかった前回とは違い、今回のアクション・プランは流域管理委員会の規定に基づいて作成されなければいけない。また、前回なかった植林も、今回アクション・プランの対象となる。指導員が地域に合った植物を植えるように呼びかけると、年配の参加者があれを植えろ、これを植えろと、若手の参加者たちにアドバイスを送る。
こうして各村のアクション・プランが出揃った。
アクション・プランに基づいて、各村では植林と石垣など構造物の設置が行われた。

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村人総出で作業に取り組んだため、アクション・プラン提出から一か月後を待たずして作業の半分以上を終えた。
この間、非常に強いサイクロンの接近があったが、石垣等の構造物へのダメージはなく、植林された苗木も無事だった。村人たちは農業の傍ら、現在も残りの作業を行っている。

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4. VVK登場

アクション・プランに基づいた植林や石垣づくりも進み、村人たちは石垣など構造物の継続的なメンテナンスの必要性を感じていた。
また、流域委員会の規定をつくるなかで、今後の活動への資金の必要性を感じ、その資金を外部からではなく村の中から調達するために流域委員会の規定でも、各家庭から資金を融通し合って流域委員会の資金にすることが定められた。
「でも実際のところどうやって村のお金を積立てて、それをうまく運用していく?」
そんな村人たちの要望に応えたのが、ビシャカパトナムのおばちゃん信用金庫、VVKことビシャカ・ワニタ・クランティである(以下VVK)。資金運用の研修を希望した4つの村から、各村4人計16名がビシャカパトナムにやってきた。
普段、あまり村から出ない参加者にとっては、ビシャカパトナムは大都会。中には海を初めて見るという村人もいた。
そんな村人一行だが、今回の目的は観光ではなく、流域委員会の資金運用のコツをVVKから伝授してもらうための研修だということを忘れてはいない。
内部資金運用の研修なら任せなさい、とVVKのおばちゃんたちが待ち構える。

「貯蓄の方法と、流域委員会でその資金をうまく運用していく方法を知りたくてやってきました。」
村人がVVKにやってきた目的を話して、研修が始まる。
まず、VVKの簡単な歴史から、会員の申込書や通帳、融資のシステムについて話すVVKのおばちゃん。村人たちはおばちゃんたちのスピード感に圧倒されながらも、VVKのおいたちや、貯蓄、ローン返済のシステムなどおばちゃんの話を必死に聞いている。

その後のトレーニングでは、グループ内での毎月の貯蓄と貸し借りについてゲーム形式で学んだ。
一通りの研修を終えて、村人からVVKへの質問の時間になった。保険の制度や返済について疑問点を再確認するなかで、一人の村人が聞いた。
「VVKは政府に税金を払っているのですか?」
「資金の運用(ローテーション)には税金はないわ。でも利益に対する税金は払っているわよ。」
筆者も他のスタッフもこの質問に驚かされていると、VVKのおばちゃんも『こんな質問されたのは初めてだわ。この子はデキル子ね。』
と、鋭い質問に対して驚くと同時に、VVKのことをもっと知ろうという姿勢を嬉しがっていた。

「VVKには災害時など緊急用の貯蓄はあるのですか?」
「VVKにはそういう別々の貯蓄はないわ。」
「ただ、これはあくまでもVVKのルールよ。だから、こういう細かいルールはそれぞれの村で決めていけばいいのよ。」

模範解答のような返答を聞いて、さすがムラのミライと長年活動してきたおばちゃんたちだと、筆者は感心していた。この返答はVVKのおばちゃんたちが自分たちでVVKの規定をつくっていなければ、絶対に出てこない言葉だろう。

「今日は本当にありがとうございました。村に帰って今日学んだことを共有して、流域管理委員会の活動に活かします。」
「また、いつでもいらっしゃい。」
そんなやりとりを聞いて、VVKに研修の依頼をしたのは間違いではなかったと、改めて感じながらVVKスタッフたちのもとへ向かう筆者。
「今日はありがとうございました。こちら謝金です。」
「ヒロさん、、、これだとちょっと足りないわよ。」
「え、でもこの額で話がついていたじゃないですか。」
「そうだけど今日は村人が16人も来たし、VVK側はスタッフも理事もいるし、もうちょっと出してくれてもいいんじゃない。」

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数人のおばちゃんたちに囲まれカツアゲ状態の筆者は、ソムニード・インディアのおばちゃんラトナを呼び、今後の研修の料金は一律ではなく、参加人数や研修内容ごとにVVKから事前に伝えることで合意した。
思わぬかたちでおばちゃんたちのパワーに触れた瞬間だった。

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5. 規定づくりは難しい

アクション・プランづくりと実施、資金運用の研修、そして振返りを通して、規定を作っては見直し、作っては見直しと、流域管理委員会の規定完成に向けた研修は続いている。
指導員たちの努力のおかげでアクション・プランづくりは出来るようになった。
アクション・プランに基づいて植林や、石垣の設置も出来る。
だけど、規定の中身は委員会の目的と具体的な活動内容がちぐはぐだったり、老若男女全員へ理解が行き届いていなかったりと、まだまだ完成に向けて行うべきことは多い。村の流域管理委員会の規定が完成して、機能しない限り、流域管理の活動を継続的に行っていくことは難しい。そして、指導員たちはそれを知っているからこそ、自らの農業カイゼンに忙しいなかでも何度も新しい村に足を運び、振返りと研修を続けている。

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B村やP村、VVKだって長い時間と労力をかけて自分たちの力で完成させた規定。それは新しい村でも同じ。1回や2回の研修で規定が完成するわけでない、でもこの規定があるからこそ、B村もP村もVVKも自分たちの活動を継続できている。
私たちスタッフの役割は、新規参入村でも規定が完成するまで、村人たちと指導員たちのサポートをすることのように思う。

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6. ここが出発点

新規参入村への研修に先立って、B村の村人たちもVVKを訪問した。B村の訪問の目的はグランド・デザインの一環として行う村の内部資金運用についての研修である。
B村は今後高利貸しからの借金をせず、村の中で資金を回していけるような仕組みづくりをおこなっている。流域管理技術の習得から、その技術の農業への応用、そして種子銀行(シード・バンク)の設立に、内部資金の運用、

『安全な水と土で安全な野菜を作り出す村、そして高利貸しなど外部からの融資に頼らなくても自活していける村』

という目標に向けて着々と活動を進めるB村。

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新規参入村がB村のところまで行くにはまだまだ時間がかかるだろう。それでもB村も始まりは同じ。一歩一歩着実に歩んできたからこそ、今のB村がある。B村の指導員が新規参入の村へ伝えられる最も大切なことは、その部分なのかもしれない。
そんなB村のグランド・デザインについては次回以降のよもやまで。

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インド地域づくり募金1

注意書き

VVK:ビシャカパトナムの女性たちの信用金庫。
ヒロアキ(筆者):實方博章。現場にて修行中。
ラトナ:ソムニード・インディアのフィールドスタッフ。

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