第1号 PCUR-LINK 事業開始式 「プロジェクトが町にやってくる」(2004 年9 月8 日発行)

In 605プロジェクト通信 インド「PCUR-LINK便り」 by master

それは、ビシャカパトナム中心地にある300 人は収容できるという、ある会議場。JICA 中部国際 センターから同事業担当の興津圭一氏とJICAインド事務所の山崎幸氏が事業開始時の調査のためにビシャカパトナムを訪れた。両氏のビシャカパトナム滞在中に、事業開始式を開くことになり、ビシャカパトナム市役所や同県農村開発局から政府の職員に参加してもらった。

この開会式は、パートナーとなる同市内および近郊のスラムの女性たちと、地元政府関係者に、 事業の内容を説明する、という目的で開かれた。開会式会場は、午前10時半の開始予定時刻ぴったりでスタートし、終了予定時刻午後12時に終了した。

1-1

ソムニード(NGO)も政府もデウル(テルグ語で神)や サンタクロースではない

参加者数は、なんと合計800 名。会場の収容人数を大幅にオーバーした。 「なんか知らんけど“ジャイカ”という日本の政府がプロジェクトを持ってきたらしい、行けば、なんかもらえるかも。」と集まってきたSHGメンバーたち。

プロジェクト・マネージャーのスピーチで、「ソムニード(NGO)(現ムラのミライ)も政府もデウル(テルグ語で神)やサンタクロースではないのでプロジェクトというプレゼントを持って町にはやってこない。JICA のプロジェクトは町にやってくるが、プレゼントはもらえない。SHGのメンバーたちにとって同事業が本当に必要だと思ったとき、初めてプロジェクトがスタートする。」と伝えた。

「援助する側とされる側の相互依存関係」

一体、何のことを言っているのか全くわからない、SHGメンバーとソムニードのカウンターパート NGOである「マヒラ・アクション」スタッフ。スラムの貧しい女性を助けてあげるのは当たり前だと思っているNGO。お金のあるNGOや政府に助けてもらうのは当たり前だと思っているスラムの女性たち。

長年、培われた「援助する側とされる側の相互依存関係」、いわば糖尿病や高血圧症といった生 活習慣病を治療するには一体何が必要なのであろうか。この3 年間の事業で、糖尿の原因を突き止め、医者と患者が一緒になって治療することは可能なのであろうか。プレゼントはもらえない、と 聞き、半ばがっかりして、開始式を後にしたSHGメンバーたちのうち、何人が3年後の事業終了時に回復の兆しを見て、自分で退院してゆくことができるのであろうか。

ワークショップまたワークショップ~思い込みの「貧困」からスタッフとSHGメンバーを救助せよ~

1-2

スタッフの巻

7 月の開始式後、8月半ばまで、ソムニードのスタッフ、およびマヒラ・アクションのスタッフは二人のファシリテーターにとっちめられた。1 人はソムニード代表理事である和田信明、もう1 人は、和田 がSHG の運営・組織論では一目置いている、ジャヤチャンドラン(チェンナイにあるNGO “Centre for Development Alternatives”の代表)である。 和田ファシリテーターが、PCUR-LINK事業のコンセプトを、ジャヤチャンドランがSHGのコンセプトを、スタッフが理解する、という目的で開催されたワークショップであった。

共通の地図を持って、目的地に向かう

「コンセプト」とは何か?これを分からせるために、車やステレオ、ミネラルウォーターなど、身近な 商品を例にとって、それぞれがどんなコンセプトで作られているのか、スタッフに考えさせた。そして、事業の当事者全員が事業のコンセプトを明確に把握していれば、その事業という名前の自動車の走行車線を時々間違えても、名古屋に行こうとしていたのに、3年後に札幌に着いてしまった、という結果にはならない。すなわちコンセプトは当事者が共通の地図を持って、目的地に向かうようなものなのだ。従来の都市と農村、生産者と消費者の関係とその利点と欠点を理解してはじめて、同事業の目標である都市近郊農村部の女性自助グループと都市スラムの女性自助グループの連携による新たな産直運動構築へつながるのだ。

「どうしてスラムの人々は貧しいのか」

ワークショップの結果、スタッフは予想以上に都市と農村、生産者と消費者の従来の関係を知らず、それを知らないことも知らない状態であった。ここまで、和田ファシリテーターにねちねちと質問攻めにあったスタッフ一同。疲れ果てたところで、ジャヤチャンドランというこれまた生活習慣病患者には厳しい医者が出現したのであった。ジャヤチャンドランの質問の多くは開発の思想そのものにかかわるもので、ワークショップ中、スタッフに投げかけられた質問は数多いので、ここでは全部紹介しないが、多くの質問は一見シンプルである。

「どうしてスラムの人々は貧しいのか」、「なぜSHGは必要なのか」

スタッフの回答はことご とくジャヤチャンドランに粉砕されてしまう。例えば、「スラムの人々が貧しいのは子沢山だからだ」というスタッフに、「インドの40年前の人口 は今より少なかったが、平均余命は40歳にも満たなかった。(平均余命は国の発展を示す一つの 目安とされている。)現在10億の人口を超えたインドの平均余命は約60歳と言われている。インドは40年前に比べて、今の方が貧しいのか?」 と問いかける。また、「SHGは貧しい人たちが収入向上をするために少しずつ貯金をするために必要だ。」という スタッフに、「SHGは貧しいのではなく、彼らにはキャッシュフローが常時不足し、また会社や政府といった組織を持たないため、組織力がないのだ。」と一喝。

そして、ワークショップの最後にはスタッフ全員が「貧困とは社会構造が作り出した富の不平等な分配であり、この不平等な富の分配体制に立ち向かうため、また代替案を提示するための組織とし てセルフ・ヘルプ・グループが必要である。」という定義づけを行うことになった。ここに同事業の SHGに対するコンセプトが確立したのであった。

「貧しくてかわいそうだから助けてあげる」NGO

ワークショップの最中、マヒラ・アクションのスタッフがジャヤチャンドランに対して、「まるでうちの団体が7年間SHG に対して、依存を生み出す以外何もしていなかったとでも言うの!スタッフにはそんな(SHG が組織として不平等な富の分配に立ち向かうための)能力はないわ!」と叫ぶ場面があった。「貧しくてかわいそうだから助けてあげる」NGO と「貧しいから助けてもらって当然」というスラムの女性、この長年培った生活習慣病をようやくこの“ワークショップ”という検査で発見できたのだった が、生活習慣病完治までの道のりはまだ始まったばかりだ。

SHGメンバーの巻

SHGメンバーを対象にしたワークショップは、PCUR-LINK事業の紹介と今年3月に行われた SHGグレーディング(ソムニードとマヒラ・アクションが設けた指標に基づいてSHGをAからDまで グレーディングする、というもの)の振り返りを行った。

PCUR-LINK事業の紹介では、この事業は、SHG 能力強化研修ワークショップに参加したSHGの中から、同事業を理解し、自ら事業を実施してゆこうとする気のあるSHGのみを対象にし、消費者と生産者を直接結びつけるための生産・物流センターの建設を行い、同センターの維持管理とともに商品開発を持続的に手がけていく能力をもったSHGを対象としていると紹介した。

ワークシップでは、スタッフが決めた指標ではなく、SHGメンバー自身で、指標を作るようにして、 自分のSHG のパフォーマンスを自己評価してもらった。その結果、SHGメンバーは見事に自分のグループに関して、その存在意義や運営に関して自ら考えたことはなく、ただマヒラ・アクションのス タッフが「SHGは良いことだ、SHGをするとローンがもらえるから」という理由でSHGを組織していたことを認識した。