研修レポート 「先入観と戦い、変えていくファシリテーション」

In 807研修・人材派遣レポート by master


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目次


1. はじめに
2.  マスターファシリテーターにできて、私にできないこと
3.  お米はどこで手に入れますか?
4.  事実質問を鍛えた、その先にあるもの

1. はじめに

2016年3月、インドネシアのロンボクでインドネシア人ファシリテーターを対象に、5日間のフォローアップ&指導者養成研修を実施した。参加者は、2004~2010年にかけて、PKPMプロジェクトCDプロジェクトを通じてメタファシリテーションを学んだ「マスターファシリテーター」たち。当時、専門家として派遣された和田さん中田さんからメタファシリテーションを学び、今ではNGO・地方政府でメタファシリテーションの手法を取り入れた活動や研修を実施して活躍しているメンバーである。和田さん・中田さんを「先生」として慕っている彼らのことを、関係者の間では「お弟子さん」と呼んでいる。
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本通信では、研修の講師を務めた和田さんに同行し、研修運営を手伝いながら研修に参加した筆者の、ロンボクでの失敗や学びについて紹介したい。

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2.  マスターファシリテーターにできて、私にできないこと

研修の3日間は農村でのフィールドワークがあり、ペアでお互いのやり取りを観察しながらインタビュー実践をした。私のペアは、PKPM時代から研修 に参加し、現在は地方政府職員として働くハリムさん。最初は、物静かさと貫禄を持ち合わせた大先輩との組み合わせに緊張を感じたが、フィールドワークの時 間が近づくにつれて、「私の恥は忘れよう。とにかく、マスターファシリテーターのインタビューが間近で見られるなんてラッキー!」と気分を切り替えていっ た。
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研修2日目の午前中、1回目のフィールドワークを行った。ハリムさんのインタビュー相手は、コメ農家のオニイチャン。質問に対して、「うーん、だいたい・・・」と一般的な答え方をするオニイチャンに対して、冷静に、「去年はどうだった?」などと必ず聞き直すハリムさん。

ハリム「苗を植えたあとに、肥料は使いましたか?」
コメ農家「〇〇という肥料を使いました」
ハリム「その肥料はどこで買ったんですか?」
コメ農家「えーっと、だいたい何でも△△市場で買えますよ」
ハリム「その、〇〇という肥料は、前回の作付け時には、どこで買ったんですか?」

こんな調子で、コメの栽培について、整地から収穫までのコストと売り上げを明らかにし、相手の1年間のおおよその収入を一緒に計算していった。

ス ムーズな流れに圧倒されながらも技を盗もうと必死に観察する私。だが、ハリムさんの後に実践したインタビューは、「恥ずかしかったことは忘れてしまおう」 の箱に入れたくなる結果で、詳細はもう覚えていない。ただ、川の流れのようにサラサラと流れ、どこまでも続くかのようなハリムさんのインタビューにはあっ て、私のインタビューにはなかったもの―それは、「ゴール(明らかにしたいこと)の設定」や「聞き取った内容を即座に整理するスキル」だと思う。
これについての考察は、ムラのミライの「対話型ファシリテーション・自主学習ブログ」にて紹介したため、ここでは割愛する。より詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧いただきたい。
「頭中のシミュレーション」から、「身体を動かすシミュレーション」へ(筆者記事)
頭の中に時間軸を引く(和田さん記事)
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3.  お米はどこで手に入れますか?

メタファシリテーションの技を磨いてきたお弟子さんたちの姿は、私の目には、とても落ち着いて、村人のどんなセリフにも切り返すことのできる自信に満ち溢れているように映る。自信があるからこそ、村人の「私は貧しいので、援助をください」というおねだりを「突き放す」という技も持っている。

例えば、この研修中に聞いて忘れられない、あるエピソードがある。それは、「和田さんの愛弟子」と呼ばれるアスハールさんの話。研修の後半に2人で喋っていたときに、今回のフィールドワークで実際にあったやり取りを、アスハールさんが教えてくれた。

(アスハールさんの話)
村人たちは「私たちは貧しい」、「私たちは無知だ」、「私たちは援助を受けるべきだ」という先入観を持っています。ファシリテーターの役割は、その先入観と戦い、変えていくことです。先入観はどこにでも存在していて、今回訪れた3つの村でも見られました。でも、PKPM時代から和田さんたちの研修を受けることで、今の私は、村人たちにこういった先入観について伝えることができます。

例えば、今回のフィールドワークで訪れた村でこんなやり取りをしました。
村のオバチャン(インタビューの相手)「あら~、こんにちは。何の援助をしにきてくれたんですか?」
アスハール「あなたは何の援助がほしいのですか?」
オバチャン(無言。しかし、その後も「私は貧しい」ということを言葉を変えて繰り返し主張してくる。)
家でのインタビューで、甘いコーヒーを出されたため、コーヒーをエントリーポイントにやり取りを始めました。
アスハール「このコーヒーはどこで手に入れたのですか?」
オバチャン「買ったんですよ~。あっちの村にはいっぱいコーヒー農園があるけど、うちの村にはないですから」
アスハール「最後にコーヒーを買ったのはいつですか?」
オバチャン「2週間前やわぁ。そんな頻繁に買えませんわ。」
アスハール「そのときは何キロ買ったんですか?」
オバチャン「250gだけよ。そんなたくさん買うお金ないですから。」
アスハール「250gよりも多く買ったことがあるか、覚えていますか?」
オバチャン「そんなん無理ですよ。したことないです」
アスハール「250gキロよりも少ない量を買ったことはありますか?」
オバチャン「ないわねぇ・・・」(オバチャンの様子が変わり始めた)
アスハール「あなたや旦那さんが『コーヒーを飲みたい』と思って家になかったことがあるか、覚えていますか?」
オバチャン「えー、それはないですけどねぇ・・・」

そういったやり取りが続いた後、最後にこんな風に会話を持って行きました。その家の庭にはランブータン、ドリアン、マンゴーなどの木がたくさん生えていました。聞くと、自分たちで植えて、果実は販売せずに自家消費のみだということでした。
アスハール「あの木は、これまでに実がなったことがありますか?」
オバチャン「あー、そりゃあよく生ってますわ。いっぱい実が生るんですよ!」
アスハール「ウィウィットさん(フィールドワークでペアになった研修参加者。インドネシア首都のジャカルタ在住)、あなたはランブータンが好きですか?」
ウィウィット「もちろん、好きですよ」
アスハール「あなたがランブータンを食べるときはどこで買いますか?」
ウィウィット「市場です」
アスハール「みかんは?マンゴーは?」
ウィウィット「全部、買いに行きます。私たちは、何か食べたいと思ったら、全部お店で買わないといけません。なので、お金がなければ何も食べることができません。」
アスハール「お母さん、あなたは今朝何を食べましたか?」
オバチャン「ご飯です」
アスハール「お米はどこで手に入れましたか?」
近くにいた別のオバアチャン「あそこに田んぼがあるのよ!」
アスハール「ウィウィットさん、あなたはご飯を食べるとき、お米をどのように手に入れますか?」
ウィウィット「えーっと、私はいつも買っています。」
アスハール「(オバチャンたちに向かって)ウィウィットさんや私のような『街の人間』は、食べたいものはすべて買わないといけないんです。自分で植えるにも、土地がありません。あなたたちは、ランブータンを食べたい、ご飯を食べたい、と思ったら買わなくても手に入りますね。どちらの生活が良いですか?」
オバチャン「でも、街の人たちは良い生活をしてるじゃないですか。私たちみたいな農民は貧しいんですよ~」
アスハール「では、私と生活を取り替えたいですか?」
オバチャン「いえ、それはしたくないですけど・・・」
このやり取りの後、オバチャンたちから、「〇〇が足りない」「●●ができない」というセリフが出てこなくなりました。

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4.  事実質問を鍛えた、その先にあるもの

前述のアスハールさんのセリフ、「ファシリテーターの役割は先入観を変えること」が意味するのは、「村人(当事者)と一緒に事実を確認することで、当事者が本当に必要なものを見つけるお手伝いをする」ということではないか―私は、このエピソードを振り返りながら、そう思う。
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私のように都市部に住んでいる人間は、農村と自分の生活とを比べて、ついつい「村にはあれもこれもない=不便だ、可哀想だ」などと思ってしまうことがある。
「わざわざ森に薪を取りに行かないと火が起こせないなんて不便だ」とか、
「こんなデコボコ道だと車が通るのに困る」とか、挙げればキリがない。
そして、村の人たちも、テレビやインターネット、外部の人や出稼ぎに行った人からの情報に接することで、「街の人たちと比べて、私たちはあれもこれも持っていなくて貧しい」と思い込んでしまう。でも、今の村にないものが本当に必要かどうか、それは個々の村によって様々なはずだ。
例えば、ある村の人にとっては、ガスコンロがあった方が便利かもしれないし、別の村では、「薪を使った方がおいしい/安い」から薪を使いたいと思っているかもしれない。あるいは、たくさんの料理をするときは薪・お湯を沸かすくらいの簡単なことは速く火のつくガスで、と使い分けたい人もいるかもしれない。
「ガスコンロがなくて、これまで実際に困ったことがあったか?」という事実を確認するところから、「村に本当に必要なものは何か?」を考えることができる。

・・・こう書くとシンプルなようだが、こういった問いかけを実際の対話のなかでやってのけるのは、かなり難しい。5日間お弟子さんたちと一緒に過ごし、インタビューの実践と振り返りをするなかで、その難しさを痛感した。ただ、この「難しかった!」という感覚とマスターファシリテーターのインタビューの観察を、同時に体験できたことは、私にとってひとつの大きな「糧」になると思っている。というのも、「この人はスゴイ!」と思える人のインタビューを見ながら、一方で私はその人の前で見事に失敗して、忘れてしまいたいくらい恥ずかしい思いをすることで、「次こそは・・・!!」という思いが湧いてくるからだ。

アスハールさんの言う「ファシリテーターの役割」を果たせるほどのやり取りができるようになるまでには、まだまだ時間がかかるだろう。ただ、前述したハリムさんのやり取りを見て気づいた、インタビューの際の「ゴールの設定」や「聞き取った内容を即座に整理するスキル」を訓練すればきっと目標に近づくことができる、という道筋は見えてきたような気がする。まずは、「事実質問でのやり取りに臨む際には、やり取りのゴールやそこに辿り着くまでの道筋を考える準備をし、終わった後には振り返りをする」ということを繰り返し実践することから始めたい。
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注意書き

PKPMプロジェクト(2004~2006年実施):和田信明・中田豊一が専門家として参加していたODAプロジェクト「市民社会の参加によるコミュニティ開発」。詳しくは、本プロジェクトのコミュニティ開発アドバイザーを務めた西田基行さんの著書「PKPM ODAの新しい方法論はこれだ」でお読みいただけます。

CDプロジェクト(2007~2010年実施):PKPMで認定された「マスターファシリテーター」へのフォローアップ、さらなるマスターファシリテーターの輩出や行政等との連携の強化のために実施された、同じくODAプロジェクト「スラウェシ地域開発能力向上プロジェクト」。

和田さん=ムラのミライ・海外事業統括。PKPMやCDプロジェクト時代には、NGOフィールドスタッフをしていたお弟子さんに「コミュニティとはなんだ?」「貧しいってなんだ?」などと、相手の頭がショートするまで質問攻めにしていたため、「ワダサンにはよくいじめられたよ~」と笑い話を披露するお弟子さん多数。一方で、研修3日目を半日休みにしてお弟子さんたちと観光に行った際には、「ワダサーン!」とお弟子さんたちの集合写真にひっぱりだこになるほど慕われている。

中田さん=ムラのミライ・代表理事。ロンボクでの研修に和田さんと一緒に講師を務める予定だったが、度重なる海外出張のため体調を崩し、今回はキャンセル。和田さんから「カナリア」と呼ばれるほど繊細な喉らしく、大気汚染のひどい都市部を経由する出張の際には要注意ということが、今回判明。

筆者:ムラのミライスタッフ・近藤美沙子。普段はネパール事務所で勤務している。大学時代にインドネシア語を勉強していたため、研修の準備・当日運営などでインドネシア側との調整を担当。

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Cover_フィールド研修2016