研修レポート 「猪鹿庁×ムラのミライで農村集落の獣害最前線を解体!」

In 100研修・イベントの記録, 807研修・人材派遣レポート by master


Fieldwork03

*研修概要=研修参加者募集HP

この研修の発端は、研修参加者の1人で、この研修の仕掛け人でもある興膳健太さんの物語から始まる。以下は、その興膳さんが語る物語である。

のどかな田園風景が広がる岐阜県の山あいの集落。この辺りは、お定まりの過疎高齢化が進み、それに加えて獣害にも悩んでいる。興膳健太さんが所属するNPO法人「メタセコイアの森の仲間たち」 は、そのような集落の支援を行うため、猪鹿庁を立ち上げた。そして何ができるかを話し合うために、役場を通じて紹介された住民に集まってもらった。まず、興膳さんが村人に尋ねる。

興膳「この集落で一番困っている問題は何ですか?」
リーダー的な存在の中年男性が答える。
村人「獣害がひどくて田畑を荒らされることだよ」
興膳「被害をもたらす獣種は何ですか?」
村人「猪や鹿、サルにハクビシン何でも出るよ」
興膳「どのくらいの頻度で出ますか?」
村人「とにかく多いよ。いつも見るね」
興膳「なぜ、そんなに出るようになったんですか?」
村人「山に食い物がないか、田畑の美味いもんの味をしめたんじゃろう」
興膳「何か対策はしてますか?」
村人「それぞれで電気柵とかやってるかな。でもあいつら賢いんだよ」
興膳「この集落に猟師さんはいますか?」
村人「最近、2人ほど罠の免許とったのがいるよ」
興膳「捕獲はできてますか?」
村人「あんまりできてないな」
興膳「どうしてですか?」
村人「2人も忙しくてね、捕獲は初心者だし、檻を買うお金もないしね」
興膳「今なら役場の補助金があるので、檻買いませんか?あれば便利ですよね?」
村人「はい。それはありがたい」
興膳「捕獲する技術もお伝えします。設置は集落でできますか?」
村人「もちろん」
興膳「設置後、餌やりや見回りも自分たちでやれますね?それが約束できれば支援します」
村人「約束するよ、できれば隣の集落のように集落柵も張りたいんじゃが」
興膳「わかりました。同じく労働力を集落から出していただければ資材は支援します」
村人「ありがとう。すごく助かるわい」

興膳さんたちは、役場にこれらの経緯を話し、補助金を使って、この集落へ捕獲檻と集落柵の資材を提供した。また、檻の設置指導と捕獲技術の講習も行った。こうして、集落では捕獲が始まり、集落柵によって防護体制も整った。興膳さんたちは、これで自立的な集落ぐるみのモデル的な取り組みを支援することができたという達成感で満たされていた。
半年後、集落では捕獲も進み、田畑の被害が減っているという報告を受けた。

それから、2年ほど経ったある日、たまたまその集落を通った役場職員から耳を疑うような話を聞かされた。捕獲檻は、草ぼうぼうの茂みの中で放置され、今はどうみても使っていないようだとのことだった。

興膳さんたちは、数日後集落を訪ねた。やはり職員の話は本当だった。捕獲檻は、茂みの中で扉も落ちた状態で放置されていた。また、集落柵も所々壊れていて、破られてそのままになっている箇所があった。興膳さんたちが来たことを聞きつけた集落の人たちが集まってきた。そして、中年のリーダーが言った。「捕獲檻ではぜんぜん獲れんので、くくり罠を支援してほしいのだが」

興膳さんは何と答えていいのかわからなかった。内心では、「自分たちで捕獲檻を活かそうとせず、次は新しいくくり罠代を支援してくれとは、なんて主体性に欠けるのだ。こんなことでは自立はおぼつかない・・・」という思いがこみ上げてきたが口には出せなかった。
IMG_5682
「あれれ?この話、どこかで聞いたことがあるぞ」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。そうです。「途上国の人々との話し方?国際協力メタファシリテーションの手法」 の序章にある「井戸掘り」のエピソードです。安全な飲料水が獣害、井戸が柵・檻に変わっただけで、話しの組み立ては、まさに同じ。この「獣害」エピソードは、2009年来興膳さんが岐阜県 を中心に獣害対策に携わり、実際に経験したり、聞いたりした話がもとになっています。

このように、心の中にモヤモヤを抱えつつ地域のために走り回っていた興膳さんが出会ったのが、メタファシリテーション(対話型ファシリテーション)。2016年の春、彼はムラのミライのメタファシリテーション1日基礎講座に参加しました。そして思ったのですね。「この技術は獣害対策にも有効だ、郡上市でぜひフィールド研修を実現したい」と。
興膳さんの仕掛けたフィールド研修という罠に自らかかっていったのが、フィールド大好きの前述の本の著者和田信明。「猪鍋 も出すよ」という餌につられたのが、ムラのミライ認定トレーナーの原康子でした。そして、研修参加者も、鳥獣害対策に関心のある会社員、途上国での駐在経験や青年海外協力隊経験者、政府機関職員、団体職員、NPO職員、銀行員、大学院生など多彩な人たちが集まり、いよいよ研修開始となりました。
IMG_5664
研修初日、和田は「獣害はいったん忘れましょう」と言いました。「獣害というから、参加したのに」という方もおられたでしょう。まずメタファシリテーションの基本である「参照点 に注意しながら観察すること」「出会った地元の方に事実質問で話を聴くこと」を集落を歩いて2日間練習し、そして最後にこうして得た情報をもとに「獣害を‘過去と現在の母袋集落’という文脈に落とし込む」という研修でした。

集落歩きを始める前、和田は参加者にこう伝えました。
「そこにずっと住んでいる人たちが気づかないことに(他所から来た人は)気づかないといけません。‘知っていることしか知らない’というのが地元の人です。10年、20年の変化は、渦中に生きている人(暮らしている人)は特に意識しません」

集落を歩き、森の民(木地師 )の話、冬の炭焼き、農耕と輸送用の馬、養蚕、植林(杉・檜)、ブナの木や梨の花と農作業の開始時期、都市部の人との交流イベント、退職後移住してきた方の暮らし等を事実質問で聞いていった参加者たちですが、なかなか事実質問だけで対話を続けてゆくことは難しい様子です。
IMG_2823
最終日の講義。和田は、参加者が集めてきた情報の解説をしました。

獣は、自然資源を介在して人と接触します。母袋集落の人々がこれまでどのように水、土、森を使ってきたのか、使う以外の試みはあったのか、まず知る必要があります。過去をひとつずつ明らかにしていく作業・文脈に落としてゆくという過程を通じて、‘獣害’という現象を明らかにしてきます。

今回は、地元の人たちと共有する時間はありませんでしたが、事実質問で一つ一つ明らかにしてゆく過程を他所から来た人と地元の人が共有していくなかで、母袋集落の特有のパターン(絵)が浮かびあがってきます。「これからの母袋集落」はその後です。
興膳さんは、研修最終日、固定概念を持たないように事実を聞くことの大切さに気づくと同時に「25代目で終わる瞬間(跡継ぎがいない)」に立ち会っているという認識を深め、‘自分にできるアクションを起こし続けていきたい’と決意を新たにしました。また別の参加者は「獣害が問題だ」と言われた際、まず問題を認識するために、細かく空間的・時間的な要素(過去)に分解して、1つずつ事実を聞いていくことが大事だと理解できたと言っていました。

狩猟というのは、効率的に獲物を追跡誘導するための集団行動を要し、高度な認知能力とコミュニケーションが必須です。猟師の興膳さんが「メタファシリテーション」に狙いを定めたのは、必然だったのかもしれません。さて今後、猟師の間で、メタファシリテーションが大ブームになる日はくるでしょうか。

3日間の流れ

日付 プログラム
1日目(午後) 集落を歩く方法その1’観察”(座学)
1)    観察スイッチを入れる瞬間
2)    参照点を見つける
3)    獣害を忘れて集落を見る方法
4)    母袋地区リーダーのお話
フィールドワーク=3つのグループで集落を歩く1
2日目 (午前)
5)    グループワーク
「分かったこと」のリストアップ
「1日目の観察では分からなかったが、次回知らなければいけないこと」リストアップ
6)    各グループ発表と「コンテキスト」に関する座学(和田)
(午後)フィールドワーク=3つのグループで集落を歩く2
(夜)母袋集落の皆さんとの猪鍋交流会
3日目(午前) フィールドワークまとめ
獣害を1つの文脈のなかに落とし込む方法
次のステップ(方向性)をみつけるまでの事実質問
質疑応答

 

関連イベント

【入門】メタファシリテーションって何?気軽に知りたい 2時間講座
「途上国の人々との話し方」入門 メタファシリテーション 入門セミナー
【基礎】本格的にメタファシリテーションを学びたい 1日講座
メタファシリテーション 基礎講座
【実践】日本・海外の町や村で実践しながらメタファシリテーションを学びたい
メタファシリテーション フィールド研修:岐阜県(郡上八幡)、インド、ネパールなど

Banner_寄付郡上