シンポジウム「地域コミュニティがつくる、水の未来」 開催報告

In 100研修・イベントの記録 by master


イベントの概要

気候変動や人口増加によって、世界中で深刻な水不足・食糧不足がおこっています。
ソムニード(現ムラのミライ)はこれまで、地域住民が主体となる自然資源の再生・保全プロジェクトをおこなってきました。
シンポジウムでは、世界と日本の水資源の現状を踏まえ、地域コミュニティによる水資源・自然資源マネジメントの可能性をさぐりました。

開催日時:8月17日(土)14時から17時
場所:エル・おおさか
主催:認定NPO法人ソムニード
助成:財団法人トヨタ財団
後援:JICA中部、日本水フォーラム、中日新聞
協力:NPO法人泉京・垂井、NPO法人AMネット、NPO法人水政策研究所
基調講演・パネリスト
佐久間智子 NPO法人アジア太平洋資料センター理事
事例紹介・パネリスト
ムドゥヌル・ラマラジュ 認定NPO法人ソムニード インドプロジェクトオフィサー
前川香子 認定NPO法人ソムニード 海外事業チーフ
パネリスト
和田信明 認定NPO法人ソムニード代表理事
コーディネーター
中田豊一 認定NPO法人ソムニード代表理事/参加型開発研究所長

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会場には75名もの方々がご参加してくださいました。

減少する水資源

佐久間:世界に存在する水のうち、私達が使用できる雨水や地下水などの淡水はわずかで、全体の0.01%とも言われています。
そのわずかな淡水も地下水や地表水の過剰取水による量的な減少、水質汚染による質的な減少に直面しているのです。
原因として、人口増加や、それに伴う食糧需要の増加があります。
例えば、質的な減少の一因として農業が挙げられます。
現代の慣行農業は窒素肥料を使用しており、その肥料が混じった水がそのまま川に垂れ流しになって富栄養化をまねきます。
富栄養化した川では魚が住めなくなります。こうしたことが世界中で発生しているのです。

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ライフスタイルの変化と水

しかし、人口増加や農業の拡大が水資源減少の主な原因ではないと、私は考えています。
最大の要因は、私達のライフスタイルの変化(=水使用量の変化)ではないでしょうか。
1900年~2000年の間に世界人口は3倍になりました。同じ期間、1人当り水の使用量は何と7倍にも増加しています。
たとえば食生活の変化は、バーチャルウォーターという形で、世界の水資源に影響を与えています。
(バーチャルウォーターとは、輸入した食物を生産するのにどれほどの水が使用されたかを概算したものです。)
例えば、牛肉1キロを生産する過程で多くの穀物が必要とされ、その穀物を栽培するために2万リットルもの水が使用される、というように・・・
私達は身近なところでよその国の水資源を使用しているのです。

これからの水資源

2030年になると、食糧需要は現在の1.5倍になるだろうと言われています。
1人当りの食肉消費は2001年時点での37kgから52kgに増加するだろうと言われています。
また、輸送燃料の5%がバイオ燃料に置き換えられるといわれていますが、そうなれば、世界の水の20%がバイオ燃料の原料の生産のためだけに使わることになります。
もっとも問題なのは、富裕層が自分たちのためだけに水や土地を使おうとしていることです。
自分達の目の前の水は使わなくても、世界のどこかの水を逼迫させることになるのです。

インドでも水資源が逼迫

ソムニードが活動するアーンドラ・プラデシュ州では年間46%もの地下水がくみ上げられており、国連の定義では「危険域」とされています。
実際に、私達が活動しているスリカクラム県では、2011年~12年で地下水位が約2倍も低下しています。
今日は、水資源の再生・保全に取り組んだプロジェクトをご紹介します。
2007年から始まり、現在フェーズ2の段階で、2015年まで続く予定のプロジェクトです。
プロジェクトの目的は、自然資源を持続的に利用することで、農山村の持続的な開発と環境保全を達成することです。
水が山の頂上から川や池まで流れ着くまでのエリア=小規模流域に着目したプロジェクトで、現在は3つの流域に点在する村々(約350世帯)で実施しています。
(※フェ―ズ1:2007年~2010年までの活動。プロジェクトの詳しい内容はコチラ

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村人が気づき、考え、計画する

プロジェクトを始める前、水源域から土壌が流れ出している、多くの種類の植物が消滅寸前である、貯水能力がない、など多くの問題がありました。
・NGOが援助をしていたこともありましたが、住民たちは施しを受けるだけでした。
・政府もため池や石垣をつくりましたが、メンテナンスがされていませんでした。
・さらに住民は、自然資源の価値や、年配の方が持つ自然資源に関する知恵も認識していませんでした。
そうした状態の村に行って、ソムニードがどう活動を始めていったのかお話ししたいと思います。
まず私達は村人と一緒に山を歩きました。
山を歩けば、そこに存在する植物や土、水といった自然資源の存在を再認識し、また問題点にも気づくことが期待できます。
つまりプロジェクトが始まるまで認識されていなかったコミュニティの資源や知恵、その価値、魅力に気づき、現状を分析するという活動です。
これを1年ほど行いました。
その後、村人たちは、減少する水や土に対して自分達がどうすればよいかを考え、計画し、活動計画やお金のマネジメントも含めて、すべて自分達の手で実行していきました。
具体的には、植林、堰堤や石垣づくり、ため池の整備と強化などを行いました。
村の人々が自分達で持っている資源を発見し、課題を分析して行動へと移していくのを手伝うのが、ソムニードの役割です。

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見え始めた効果

プロジェクトの効果は早くも出始めています。
森は再生されつつあり、土壌流出も減少しました。
多くの「途上国」では、市場経済の浸透に伴い、雇用を求めて多くの男性が農村部から都市へ出稼ぎに行ってしまいますが、このプロジェクトを始めてからというもの、農村を出て都市に出稼ぎに行く人が減ったうえに、みんな農作業で忙しく生産量が上がってきています。
フェーズ1では6つの村で活動していましたが、現在では16の村で行っています。
自分たちがおこなってきたことの意味を理解し、その効果を実感した住民が、自分の村から周りの村へと、流域管理・自然資源管理の活動を伝え始めているのです。
また、フェーズ1で行ってきたコミュニティ単位での山での水や土壌保全を、今度は個人の農地でも実施しようと、フェーズ2からは自分の田んぼや畑でも、水を効果的に貯水したり土壌を留めておくような処置をし始めています。
(→インドプロジェクトの最新情報はコチラ

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休憩をはさんだ後、参加者からの質問も取り入れながら、パネルディスカッションを行いました。

マクロとミクロの交わるところ

中田:お互いの講演でどこかつながるものがあったか、どういう気付きがあったかを簡単にお伝えいただければと思います。
佐久間:日本の日常の中で感じていることが、インドの事例と通じているところがあったと感じました。私は毎日畑に出ているのですが、梅雨入りしても1週間雨が降らないなど、渇水を感じることがあります。今後水資源が減少していく中で、いかに水を貯めるか、土壌を守っていくかということが重要になっていくと思いました。水資源が乏しいところでウォーターハーベスティング(水の多用途利用)を考えていくことが一つのポイントになっていくのではないでしょうか。
前川:今日ご紹介したプロジェクトに携わる前は、実は私自身、水や森という自然資源にあまり注目したことがなかったんです。今日は日本の輸入している作物がどれだけ他国の水資源に影響しているかを改めて数字で見せられ、驚きました。インドでの活動では、どんどん土壌が変わってくるのを感じていて、それが個人だけではなく地域にいかに恩恵を与えているかというのを実感しています。今は、この活動をどのように他地域にひろげていくのか、ということを考えています。
ラマラジュ:佐久間さんのお話はインドの活動とつながっていると感じました。今、プロジェクトでは、水資源を有効活用する農業に取り組んでいます。以前は、村では換金作物の栽培が多かったのですが、自給のための穀物を育てる動きも復活してきています。そういった意味で佐久間さんのお話しとつながる部分があると思いました。私たちはミクロなレベルで活動していますが、その活動がマクロに広がって行くことを期待しています。

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インドでの経験を日本で活用する

中田:「ソムニードが日本でできることもあるのではないか」という質問が来ていますがどうでしょうか。
佐久間:高齢化が進み、過疎地域では基本的な生活基盤すら自分達で維持しがたい状況となっています。開発援助NGOは、そうした日本の中山間地で力を発揮してほしいと思っています。また、センスオブプレイスという言葉がありますが、みなさんは水道の水がどこからきているか知っていますか?ソムニードは、ミクロな、自分の周りの小さな自然サイクルに関心を持つための力になれるのではないかと思います。
和田:人口減少に転じた日本で、人が都市に集中し続ければ、いずれ農村はなくなってしまいます。産業としての「農業」は残るかも知れませんけど。例え、産業としての「農業」が残っても、コミュニティとしての農村がなくなるということは、自然資源=身近なものとして自分が責任を持てなくなる、愛せなくなってしまうということです。今後、腰を据えて国内の山間地域にも関わって行きたいと私は思っています。

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私は今回のシンポジウムに参加して、マクロ・ミクロ両方の視点から水問題を捉えることができました。
また、ある側面では良いとされているものが、別の側面から見ると社会に悪影響を及ぼしているという事実を改めて認識しました。
例えば、バイオ燃料は再生可能エネルギーとして期待されていますが、一方ではトウモロコシやサトウキビを生産する過程で食糧問題や水問題に不平等を引き起こしています。
このような自然のサイクルを意識して生活しなければならないなと感じました。

(インターン 才野英里子)