でこぼこ通信第24号「ママ、もう1個ゴミ箱いるんじゃないの?」2016年6月30日発行

In 801プロジェクト通信 ネパール「バグマティ川再生 でこぼこ通信」 by master


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目次

  1. エコレンジャーを目指すオバチャンたち
  2. ママ、もう1個ゴミ箱いるんじゃないの?
  3. 子は親の鏡~ゴミ分別を続けるコツは、「習慣化」
  4. 行動の伴わない人の言葉に誰が耳を傾ける?

 

1.エコレンジャーを目指すオバチャンたち

5月30日の朝、和田さん(※1)と一緒に、研修の会場に向かった。事務所から車で20分ほどかけて行く、ナイドール村。ここでは、バグマティ川中上流に住む村の人たちを対象にした「エコレンジャー」育成研修を週に一回開催してきた。

研修では、まず、「川の汚染や路上に廃棄されるゴミといった問題に取り組むために、地域で具体的にどのような行動を起こすべきか?」を参加者自身が考えるような問いかけやグループワークを行った。それを受けて、参加者の大半は、家庭でできるゴミ分別・生ゴミ堆肥づくりや、地域での定期的な清掃活動、また近所の人へと学んだことを伝えるといったアクションも起こし始めている。

今後は、これまでの研修や自分たちで始めた活動を通して学んだことを周りの人へと伝え広げる「エコレンジャー」として、参加者自身が研修を担っていく。今日は、他の参加者やソムニード・ネパールのスタッフ、そして研修講師の和田さんの前で、これから予定している研修のデモンストレーションをする日。

研修の参加者は、ほとんどが女性。学生もいるが、多くが家庭を持つ「オバチャン」。この日は、朝から雨が降りそうな天気だったが、オバチャンたちは、暗くどんよりした空気を吹き飛ばすほどの明るい顔で、「ナマステ~!」と迎えてくれた。

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研修中のオバチャンたち IMG_2958

 

 2. ママ、もう1個ゴミ箱いるんじゃないの?

勢い溢れるオバチャン参加者のなかでも、私(※2)が特に注目しているのが、マイナ・ディディ。(“ディディ”とは、ネパール語で「お姉さん」の意味。年上の女性に対して“~さん”という丁寧な呼び方をするために使われる。)

研修の内容を熱心にメモに取り、質問に対して常に発言し、グループワークではまとめ役を買って出る、とにかく積極的な参加を見せている。

そんな彼女が、デモンストレーションンのなかでみんなに伝えたエピソードのひとつに、こんなものがあった。

「私には、3歳の息子と6歳の娘がいます。研修に参加し始めてから家でのゴミ分別を始めましたが、娘は、ゴミの種類ごとに別々のゴミ箱に入れる習慣がつきました。息子は、まだ幼くて分別はできませんが、『ゴミをゴミ箱に入れる』ということは身に着けています。」

発表では、さらりと終わらせてしまったこの話。

実は、子どもたちへの影響はこれだけではないということを、私は知っている。というのも、前回の研修の休憩時間中、彼女は嬉しそうにこんなことを語ってくれたからだ。

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「研修を受けたあとには、必ず子どもたちに話をするの。ゴミ分別も子どもたちと一緒に始めたのよ。ほら、これがその写真。最初はゴミ箱を3つ置いて、家にあるゴミを全部分別することにしたんだけどね、今では4つに増やしたのよ。だって、しばらくしてから娘にこう言われちゃったんだもの。『ねぇママ、金属ゴミを入れる箱もいるんじゃないの?』ってね。

息子はね、外に一緒に出かけたとき、道端に落ちてるゴミを見て、『ママ、これゴミだよね?ゴミ箱に入れないと!』って言って、拾ってゴミ箱に入れたのよ。」

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3. 子は親の鏡~ゴミ分別を続けるコツは、「習慣化」

このエピソードは、マイナ・ディディについて、2つの事実を物語っていると思う。

1つ目は、もちろん、この研修の目的通り、「(ゴミ分別という)アクションを、他人に伝え広げる」を実行しているということ。

そして2つ目は、口先だけでなく、ゴミ分別を、「習慣化している」ということだ。

私は、彼女の話を聞きながら、ある回の研修の中で和田さんが紹介した「子は親の鏡」という話について思い出していた。

「みなさんは、今では『家でゴミを分別しています』と言っていますね。その行動を続けるためには、習慣化する必要があります。みなさんには、子どもがいますよね。子どもというのは、親の行動を映す『鏡』です。ポイ捨てをしない子は、親の行動を見てそれを身に着けているはずです。もしあなたの子がポイ捨てをしているなら、それはあなたの行動を真似ているからですよ。子どもの行動を観察することで、自分の習慣について振り返ってみてください。」

親は子の鏡

 

 

 

 

 

良くも悪くも、私たちは親や周囲の大人の行動を真似て、自分の習慣を形成していく。

例えば、ゴミ箱のないところで捨てたいものがあるとき、ポケットやカバンに入れて家まで持ち帰ることは、日本人にしてみれば、当たり前のことかもしれない。

ネパールに住んでいると、バスの中で食べたお菓子の空袋を外に「ポイッ」とする人や、歩きながら小さなゴミを道に落とす光景は、珍しくない。それは別に、「ゴミを捨ててやろう」と意図的にポイ捨てしているわけではない。ただ単に、「必要のないものだから手放す」という感覚が当たり前で、無意識のうちに癖になっているのだと思う。

マイナ・ディディの子どもたちが親になる頃には、ネパールでも、「無意識」にゴミをゴミ箱へ入れる人が増え、種類別にゴミを分けて処理することが「当たり前」になるだろうか?

彼女の嬉しそうな顔を見ながら、そんな期待を抱かずにはいられなかった。

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4. 行動の伴わない人の言葉に、誰が耳を傾ける?

さて、発表の後に和田さんがオバチャンたちに念押ししたこと。

「外に出かけるとき、みなさん、必ず携帯を持って出ますね?その時に、買い物で使うためのマイバッグも手に取るのです。行動の伴わない人の言葉は、誰も信じません。もし、誰かがあなたに『ゴミを減らさないといけません』などと説教をたれることがあれば、聞き返せばよいでしょう。『あなたは、マイバッグを持ち歩いていますか?』と。」

そう、口で言うことは誰にだってできる。

でも、カトマンズのゴミ問題を解決するためには、行動が伴わなければ意味がない。

平気な顔でポイ捨てをしているネパールの人だって、(おそらく、当たり前すぎて無意識だからこそ「平気な顔」でしているのだと思うが・・・)聞かれれば、「ポイ捨てはよくない」「ゴミを減らさないといけない」と言うだろう。

研修中のムラのミライスタッフたち

 

 

 

 

 

しかし、言葉通り実践できている人はいったいどれくらいいるだろうか?

研修のネパール語通訳をしているソムニード・ネパールのウジャールでさえ、和田さんに

「ウジャール、おまえはマイバッグ持ってるか?」と聞かれると、

「持ってます!」と答えながらも・・・、実際には、ヨーグルトを買いに行ったさい、ビニル袋に入れてもらってきていたこともある。

 

私自身、ネパールで働き始めてから、自分の行動を見直すようになった。

「ネパールで何をしているんですか?」と聞かれるたびに、

「NGOで働いています。私たちの団体は、バグマティ川をきれいにするプロジェクトをしていて、家庭から出る排水やゴミによる環境汚染を食い止めるために、地元の人々の習慣を変えるための研修をしています。」といった答え方をしてきた。

新しい人と出会い、この質問をされるたび、内心“ドキッ”とする。果たして、私自身の生活はどうだろうか?と。

この仕事をしている私は、バグマティ川の汚染を減らすような生活ができているだろうか?生活の中で、少しでもゴミを減らす努力をしているだろうか?

家では、プラスチックのゴミ箱と缶・瓶用のゴミ箱、そして生ゴミ・紙ゴミを分けている。生ゴミ・紙ゴミ以外は、オフィスに持ってきて、オフィスのゴミとまとめてリサイクルに出している。思えば、日本でここまで分別にこだわったことはなかった。そして、自分の生活から出るゴミの量について振り返ることもなかった。

今、日本の生活を振り返ったとき目に浮かぶのは、様々な包装紙やプラスチック包みですぐにいっぱいになる、自分の部屋のゴミ箱。そして、何を買うにしても、過剰に包装のされた商品の並ぶ店。

日本では、道端や川にゴミ山ができている光景を目にすることはほとんどないが、かといって、ゴミがネパールより少ないわけではない。大量に排出されているゴミを燃やすだけの燃料とお金が、ネパールよりもあるというだけのこと。

 

6月3日、日本に戻った私は、八百屋さんで野菜を買った。

スーパーではなく八百屋さんを選んだ大きな理由は、個包装されていない野菜を買う選択肢があると思ったからだ。あいにく、すでにパッケージされている野菜も一部あったが、それでも、スーパーで買い物するよりかはゴミを減らすことができた。

消費者としてのこの行動は、とても些細なものかもしれない。

でも、「口だけではなく、実際にアクションを起こし、それを継続する」というのが、私が研修でオバチャンたちと一緒に学んだこと。小さなことだろうと確実に行動を積み重ねる。それなしにはネパールのオバチャンやその子どもたちに顔向けできない。

「他にも、私にできること・私がすべきことは何だろう?」と、オバチャンたちの表情を思い浮かべながら考えるのだった。

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注意書き


※1 和田さん:ムラのミライスタッフ(そして設立者)和田信明。

デモンストレーション研修について鋭いコメントを入れつつも、ジェスチャーや声のトーンで参加者を笑わすことを忘れない。すっかりオバチャンたちの心をつかみ、研修の最後の集合写真タイムでは、個別の写真撮影もねだられることに・・・。


※2 私:筆者、ムラのミライスタッフ近藤美沙子。

ネパール人にも日本人にも「ネパール人に見えるね~」と言われつつも、ネパール語の習得は遅く、オバチャンたちとのやり取りは簡単なネパール語or英語。ちなみに、マイナ・ディディの子どもたちの話は英語でしてもらった。