でこぼこ通信第22号「今日からプラスチックは燃やしません!」2016年1月6日発行

In 801プロジェクト通信 ネパール「バグマティ川再生 でこぼこ通信」 by master


 

目次

1.新たな村でのDEWATSプロジェクト開始
2.いざ、バグマティ川へ!
3.清流を下ると・・・
4.援助劇場はどこでも起こっている
5.今日からプラスチックは燃やしません!
6.エンジン全開・・・なるか!?DEWATS

1.新たな村でのDEWATSプロジェクト開始

2月にデシェ村での活動が終わり(でこぼこ通信第17号「事業の終わりこそ、デシェ住民の活動の始まりである」2015年3月3日発行)、3月から始まるはずだった、新たな場所での分散型排水処理施設(DEWATS)の建設。
4月の地震、9月から続く燃料不足によって、地震そのものの影響だけでなく、建設資材の価格が高騰し確保が困難になったり、ガソリンが手に入らず車両が使えなかったりとなかなか着手できずにいたが、11月に入り、ようやく建設開始の目途がたち、同時に村人たちへの研修に取り掛かることができるようになった。

新たなDEWATSの建設予定地は、デシェ村から歩いて10分ほど、バグマティ川を挟んで向かいに位置するバスネット村。村に隣接するNational Marty’s and Peace Parkの敷地の一部を提供してもらいDEWATSを建設する(バスネット村の家庭排水とともに、この公園のトイレの排水もDEWATSで処理することとなった。)この公園の理事メンバーには、環境教育プロジェクトでも大活躍のスミ先生やラジェシュ先生、ゴビンダ先生が名前を連ねている。

建設と並行しておこなう研修では、何のためDEWATSを建設しているのか=川を汚染している原因が自分たちの生活にあること、その解決のためにDEWATSを活用することを理解してもらう。DEWATSを援助の遺跡にしてしまわないためだ。その研修の第一回として、バグマティ川を上流から下流まで移動し、川を観察するフィールド・エクスポージャーを実施した。(昨年の様子はこちら→でこぼこ通信第12号  「読み書きできない彼女たちに分かるはずがない」2014年8月5日発行)

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2.いざ、バグマティ川へ!

12月23日、午前7時。
吐く息も真っ白で、みんな目深に帽子やストールをかぶっている寒い朝だ。
この日、集まったのはバスネット村の人々と、公園の運営メンバー合わせて約70人。
バス2台をレンタルして、いざスンダリジャルに向かう。
このバスが時間通りに来なくて30分も凍える羽目になったのだが。
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今日は和田ディベンドラもいないので、フィールド・エクスポージャーを切り盛りするのはウジャール。そこに公園関係者ということで、スミ先生という強力な助っ人が加わった。
和田もディベンドラもいないことにやや不安気味だった2人ではあるが、ふたを開けてみると、私たち同行スタッフ(ラングー、ビノード、ミッシー、筆者)にも「そこのグループの水質検査を手伝って」や「あと15分したら水質検査のためにみんなを集めますね」など、テキパキと作業の指示を出し、切り盛りしていたと思う。
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スンダリジャルで観察を開始したのは午前9時ごろ。
「ほら、魚とれたで!」
「そのプラスチック早よう拾って!」
「この実はティムルって言うてな…」
と、網とバケツを持って生き物調査を楽しむオバチャン、オッチャンたち。
(ネパール語の訛りはよくわからないが、村の人たちがワイワイ話している様子を見ると、私が慣れ親しんだ関西弁で聞こえてきたので、ここでも関西弁にさせていただいた。逆に参加者を前に話すウジャールやスミ先生はちょっとかしこまった感じである。)
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ひととおりの生き物調査と簡易水質検査が終わると、参加者みんなを集めたウジャール。
ウジャール「みなさん、ここで何を見ましたか?…なるほど。でも、見るだけじゃないですね。例えば、どんなにおいがしました?匂いをかぐ、音を聞く、手で触ってみる。
からだ全身を使って、川とその周りの環境を知ることができますね」
と「観察とはどういうことか」伝えようとする。
その後、木くずとプラスチックを手に取って、土に還るゴミとそうでないゴミの話をした。
ここスンダリジャルも、見た目はキレイでまだまだ魚や虫が住んでいるとはいえ、あちこちにプラスチックや古くなった服・靴がそのまま捨てられ、放置されている。
(このやり取りにピンときた方、そう、元ネタはこちら→第8号 「マジシャンとファシリテーター」 2014年1月20日発行)
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日も高くなり、だいぶ暖かくなったところで、次の観察ポイントである中流グジェシュワリに移動した。

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3.清流を下ると・・・

グジェシュワリに到着した途端、
「うわ、スンダリジャルよりも汚れている!」というオバチャンたち。
スンダリジャルにはなかった藻が生えている。スンダリジャルで見たような魚も見られない。川の汚れは数値になっても現れた。例えば、スンダリジャルでは6 mg/l以上あった溶存酸素量の値が4 mg/lまで下がっている。
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そして、下流のテク。
ゴミ中間集積場に近く、以前はゴミの埋め立て地だったテクでは、何とも言えない臭いがただよい、ゴミだらけのドブ川と化してしまっている。
参加者のオバチャン、オッチャンたちもすぐにマスクを身につけ、顔をしかめ、水質検査用の水をとりに行くのに、「誰が行くんよー」という感じで躊躇している。
私自身、ここにやってくるのは3回目だが、やはり慣れない。中流グジェシュワリと大きく違うのは、溶存酸素量の値である。魚介類の生存が脅かされる3mg/lを大きく下回る1mg/lを記録した。
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一日で上流からここまで移動してきた参加者たちは、あまりのスンダリジャルの状況とのギャップに驚いていた。
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4.援助劇場はどこでも起こっている

さて、そんなテクでの出来事。
駐車スペースから川まで歩いていく途中で、一人のオバチャンがゴミを分けていた。
「何をしているんですか?」と聞くスミ先生と参加者たち。
「こうやってごみを分けて、資源回収業者に買ってもらえるものを売るんだよ」と、いきなりやってきたお客さんにもちゃんと答えてくれるオバチャン。

実は、テクを訪れるのは初めてだったというソムニード・ネパールのスタッフ、ラングー。
テクに漂うゴミの臭い、バグマティ川の汚染状況にショックを受けていたのかもしれない。
参加者がオバチャンの話を聞いているときにコッソリと耳打ちしてきた。
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ラングー「トキエさん、あの人はこんな環境の悪いところでマスクもつけずに素手でゴミを分けているんだ。フィールド・エクスポージャー用のマスクと手袋は多めに持ってきてるから、少し彼女にわけても大丈夫?」
筆者「うーん、まぁ、数枚ならわけてもいいんじゃない。」
そのオバチャンがマスクや手袋をもらったからといって使わないんじゃないかなーという気はしたが、反対する理由もなかったのでOKした。

テクでの水質検査を終えた帰り道、そのオバチャンはまだゴミを分けていた。
さっき渡したマスクもつけてないし、手袋もはめていない。

後日、オフィスでフィールド・エクスポージャーの報告をしていた時に、それこそが「援助劇場」(詳しくは、『途上国の人々との話し方』をご覧いただきたい)の落とし穴なんだと気づかされた。ラングーが心配したことは間違っていないとは思う。あの環境で、素手でマスクもつけずに作業していたら、絶対に体に悪い。怪我をすることだってあるだろう。
でもきっと、オバチャンはゴミの臭いにも、素手で作業することにも慣れてしまっているのだ。そこに他所から来た私たちが「マスクと手袋、使ってくださいね」と渡したところで、すぐに使う必要も感じなかったのだろう。オバチャンにとってはそれがいつもの生活、いつものことだから。

それを、例えば「彼女が無知だから」という乱暴なロジックで片づけられるものではないと思う。つまるところ、外部の人間が「こんなに劣悪な環境であの人たちは生活をしている。●●が必要!」と思ってとモノやお金を渡したり、研修をしたりしても、それは援助する側の「思い込み」でしかないのだ。当の本人がそれを「問題だ」と思い、何とかしようとしなければ、モノもお金も研修も無用の長物である。同じことがあの短いやりとりでも起こっていたのだ。

だからこそ、今回のフィールド・エクスポージャーが、バスネット村の人たちにとって、「気づかないうちに、自分たちの周りもあっという間にテクのような状態になってしまうかもしれない」「これはなんとかしなきゃダメなんじゃ?」ということに気づいてもらう第一歩になればいい。

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5.今日からプラスチックは燃やしません!

日も傾きかけたころ、同じく下流に位置するチョバールでの観察&水質検査も終わった。ウジャールとスミ先生が参加者の前に立ち、今日のふりかえりを始めた。
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ウジャール「今日、スンダリジャルからチョバールまでバグマティ川を見てきましたね。」
参加者「テクやチョバールの川がびっくりするくらい汚れていたわ!」
ウジャール「そうですか。でも、あなたたちが住んでいるところの川がまだ汚染されていないように見えるとはいえ、このまま放っておいたらどうなると思いますか?気づかないあいだにテクやチョバールみたいになるかもしれませんよ」
少しのあいだ、黙り込む参加者。
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ウジャール「今日はたくさんのプラスチックを見つけましたね。(ミッシーや私を指して)彼女たちが住んでいる日本でもプラスチックはたくさん出るけど、分別されている。ネパール人の私たちにもできないわけじゃない。たとえば、今日みなさんに渡したエコバックで買い物すると、プラスチックを減らせる。玉ねぎとニンニクを買ったとして、一つの袋のなかで混ざっても大して問題じゃないでしょう?」
「ネパールに住む私たちは、いったん誰かから学んだら、それで十分と思ってしまいがちです。でも、そうじゃなくて、私たちはいろいろな人・経験から学ぶことができるんです。」
最後に、一人のオバチャンが、話したいことがあると、みんなの前に立った。
「今日は本当にありがとう。最近の燃料事情でウチも調理に薪を使い始めたんやけど、実はプラスチックも一緒に燃やしてたんや。そやけど、今日こうやって川を下ってきて、観察して…今日からプラスチックは燃やさへんって決めた!みんなも、な!」と言ってくれた。
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6.エンジン全開・・・なるか!?DEWATS

この翌日、DEWATS建設に関するMOU(覚書)が公園の運営委員会とムラのミライの間で締結され、ささやかながら署名式が執り行われた(式は多分に形式的なものであるが、そこは各種儀礼を大事にするネパールである)。ムラのミライ側の署名人は和田が務めた。
署名式には、フィールド・エクスポージャーに参加した公園スタッフのオバチャンたちも立ち合った。
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署名前の和田によるスピーチ。
和田「昨日のフィールド・エクスポージャーに参加した人は?なるほど。あなたたちはテクにも訪問して現状を見てきましたよね。テクのような環境に住みたい人はいますか?」
参加者「いや、住みたくないですね…」
和田「でも、このままだと、数年もたたないうちに、このあたりもテクのような状態になってしまいますよ。だから、動くなら今なんです」
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ここから、エンジン全開なるか!?
これから始まるDEWATSの建設や研修のようすは、次号以降の通信でお伝えしたい。

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注意書き

スンダリジャル、グジェシュワリ、テク、チョバール:バグマティ川でのモデル・レッスンやフィールド・エクスポージャーを実施する際の観察ポイントの地名。上流から下流までバスで移動して観察&水質検査をおこなう。
和田:ムラのミライスタッフ(そして設立者)和田信明
ディベンドラ、ウジャール、ラングー、ビノード:ソムニード・ネパールのスタッフたち
ミッシー:ムラのミライスタッフ、近藤美沙子。現在、ネパール事務所に長期出張中。本人たっての希望により、ニックネームのミッシーの名で本通信に初登場。

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このプロジェクト通信に登場する和田信明にじっくりコミュニティ開発を学ぶ、インドネシアでの研修を2016年3月に開催。
詳細は下記をクリック!

マスターファシリテーターを目指す旅