でこぼこ通信第20号「メニューじゃなくて、どうやって料理するかを知りたいんです」2015年9月15日発行

In 801プロジェクト通信 ネパール「バグマティ川再生 でこぼこ通信」 by master


 

目次

1.はじめに
2.3年間の先生たちの活動から生まれた副読本
3.副読本を活用した授業プランを作ってみる、だけど…
4.メニューじゃなくて、どうやって料理するかを知りたいんです
5.相手の立場になって考える
 

1.はじめに

ネパールの季節は大きく分けて雨期(6~9月ごろ)と乾期(10~5月ごろ)。
雨期が終われば、カトマンズは怒涛のお祭りシーズンが始まる。お祭りでしょっちゅう休日になるので、お祭りのない日=休日でない日を探すほうが大変なくらいだ。
なかでもネパール最大のお祭りが10月にあるダサイン(収穫を祝うお祭り)。ダサインのあいだは約1週間の休日となる。その前後も含めると、月の半分以上はなんだかんだでお休みモードが続くため、「この仕事、ダサイン前に片づけてしまいましょうね!」が口癖になりつつある今日この頃。

そんな雨期の終わりにさしかかった8月、ネパールオフィスもいよいよ本格的に活動を再開した。今回のプロジェクト通信では、現在カトマンズで実施している2つのプロジェクトのうち、環境教育プロジェクトでのようすをお伝えしたい。

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2.3年間の先生たちの活動から生まれた副読本

先生たちやチャタジー公子さんと1年間かけてコンテンツを作り上げた、環境副読本Bagmati ji: We learn and Act With the Bagmati River(バグマティさん―バグマティ川と学び活動する)。この副読本は、いわば、これまでの3年にわたる先生たちの活動の成果。英語・ネパール語版の2種類を制作し、ムラのミライの研修を受けた先生たちに配布している。
「この環境副読本を活用しながら、今度は自分たち自身でバグマティ川を知る授業を企画・実施してみたいですね」
と、配布先の先生たちからも前向きなコメントをもらっていた。
副読本
副読本の配布
この副読本をどう授業に活用していくかは先生たち次第。とはいえ、この副読本を環境教育の授業でフル活用し、学校から地域へと環境を守るための取り組みを広げてもらいたい!…と、副読本を授業でどう活用するかを考えてもらうための研修を開催することになった。
第1回目の8月28日(金)は、これまでにムラのミライの研修を受けてきた先生のうち、25人が参加した。

ムラのミライで働くようになってから約2年。実は和田さんによる研修をフルで見るのは今回が初めてだ。だが、ソムニード・ネパールのスタッフにとっては慣れたもので、プロジェクト通信でもおなじみのウジャールが、「研修の準備は任せて!」と前日にササッと必要な機材や文房具の準備を済ませた。当日も早めにオフィスに来て記録の準備をしていた。

研修開始の時間になって先生たちが集まり、和田さんの横にディベンドラが並んで英語・ネパール語通訳の準備も万端。「そうそう、この光景を写真でみたな~」と、初めての研修にワクワク感いっぱいで席につく。同じく和田さんの研修は初めて見るというムラのミライスタッフのミッシーとともに、人手の必要なところはサポートしながら、研修を追っていった。
トレーニングのようす

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3.副読本を活用した授業プランを作ってみる、だけど…

まずは参加者の自己紹介と副読本を読んだ感想を一人ひとりに聞いていく。
その後、和田さんから先生たちに、こんな質問が投げかけられた。
和田「これまで、ムラのミライの研修はどんな方法でやってきたでしょうか?
今みたいに、質問を投げかけることをしてきましたね。この副読本も同じ方法論で作られています。みなさん気づきましたか?つまり、本のなかでたくさんの質問を投げかけています。明確な答えのない質問もありましたし、生徒たちが自分で答えを見つけなければならないものもありましたね。ここで、また、みなさんに質問を投げかけたいと思います。
教育において大切な要素は何でしょうか?」
先生「好奇心?」
「実践的であること?」
「楽しいこと!」
「生活で使えること」・・・
和田「答えは一つではないと思いますが、私がそう問われたなら、疑問を持つ(give chance to pose the question)機会を与えることが一番大切だと答えますね。」

ムラのミライの研修の特徴は、一方的にファシリテーターが話して終わるのではなく、質問を投げかけて、もしくは参加者自身が何か疑問をもったことについて、脳みそが沸騰するくらい考え抜いて自分で答えを見つけていくこと。
これが教育でも大切なんだということを、先生たちと確認してからグループワークに移った。

グループワークでは、6人でグループをつくり「環境副読本を活用した授業プラン」をつくる。副読本の活用といっても、「あれをやりましょう、これをやりましょう」と事細かにムラのミライやソムニード・ネパールから提案することはしない。先生たちからの授業プランの提案があって、はじめて私たちも授業をサポートすることができる。そのためのグループワークだ。
和田さんから先生たちに、以下の4つのポイントについて考え、模造紙に書き込むように指示がでる。

1.授業を実施するために必要な時間を割り出す
2.1.の時間割に沿って授業トピックを考える
副読本の内容からいくつかピックアップしても、トピック同士をくっつけてもOK
3.2.について、どんなふうに授業を進めていくのか考える
最初の質問は?次は何をする?絵を描いてみる?などを書き込む
4.授業実施にあたり、どんな道具や材料が必要かを考える
USBメモリ、紙など必要なものをすべてリストアップする

副読本を片手に、あれこれディスカッションをしながら作業を進めていく先生たち。
お昼休憩をはさみつつもグループワークを始めてから1時間半ほどたったころに、ウジャールが和田さんのところにやってきた。
「あそこのグループはもう授業プランができあがっていますよ。あっちのグループももう少しでできあがりそうです。各グループで作ったプランの発表は15分後に始めませんか?」
というウジャールに対して、
「え?そんな短時間でできたの?本当に?」という和田さん。
グループワークのようす1
グループワークのようす2
そのやり取りを聞いていて、
「たしかに、上の4つのポイントを押さえつつ授業プランを作るとなると、ましてやグループワークなのだから、まずはお互いの興味・関心・目的をすり合わせていく必要もあるから時間がかかるだろうなー。でも、先生たちは授業プランが出来上がってリラックスモードに入っている。一通りの授業の流れは網羅してあるようだけど…」
と、後からふりかえると、この時の和田さんの発言の意図からややズレたところを、あれこれ気にしていた筆者。

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4.メニューじゃなくて、どうやって料理するかを知りたいんです

約15分後。
「もう各グループの発表を始めても大丈夫ですか?」と聞く和田さんに対し、「準備万端ですよ~」という顔の先生たち。最初のグループが発表を始めた。
先生「全体の授業時間は40時間で…最初は導入としてバグマティ川について知る時間を設けます。それから…」
と順を追って自分たちが考えたプランを披露し、最後まで終わると、グループの面々は「やりきった!」という表情。

それまでじっと先生たちの発表を聞いていた和田さん。
和田「じゃあ、このグループのプランについて、一つずつ確認したいんですが…まずは導入でバグマティ川がどこからどこへ流れているかを知る。それからモデル・レッスンは一日かけてやるんですね。スンダリジャルからチョバールまで訪問する。それで、その次の“Map Work”は…」
先生「ああ、それはここに挙げた4つのテーマを、1回(1時間)1テーマで勉強していくんです」
和田「となると、最初の1時間は“Study Map(地図について学ぶ)”ですか?この授業では何をするんですか?」
先生「モデル・レッスンで行った場所を地図上で確認するんです。」
和田「それなら5分で終わりませんか?1時間も必要ですか?ここのポイントは何ですか?」
先生「地理的情報を得るんです」
和田「地理的情報って?」
先生「緯度や経度ですよ。」
和田「生徒が地図を見て、モデル・レッスンで訪れた場所の緯度や経度を知ってどうするんですか?この授業のポイントは?」
先生「バグマティ川がどこから流れてどこにいくか…」
和田「それだったら、導入の授業で終わっているでしょう。」
この、和田さんからのツッコミを聞いて、グループのメンバーだけでなく、他の先生も一斉にあれこれと言い始めてトレーニングルームが一気に騒がしくなる。
(ちなみにネパール語初級者の私には、詳しい内容まではわからない。)
和田さんと先生
騒がしいトレーニングルーム
先生「ネパールの地図を書いてここがバグマティ川…と確認していくんです。」
和田「だから生徒たちは退屈になるんじゃないですか。あなたたちは(1時間も地図で場所を確認するだけの授業は)退屈じゃないですか?
観察地点はどこか、バグマティ川がどこから流れてきているのかは、モデル・レッスンの準備として取り扱えばいいのではないですか?(モデル・レッスンが終わった次の)ここでは、自分たちが何を経験したのかをふりかえるべきなのでは?
たとえば地図を見て、トポグラフィー(地勢図)を見て、スンダリジャルで経験したことを思い出してもらう。
彼らがすでに学んだことをさらに深めるには、どう地図を読めばいいのか、そのやり方を教えるべきでしょう。どんな人が住んでいるのか、農業は、水の供給は…(中略)たとえば、パシュパティナート付近ではすでに川が「死んだ」状態になっていることが水質検査でわかったけれど、地図からはどんな情報が読み取れるだろうか?」

ここで研修序盤の和田さんと先生たちとのやり取りが生きてくる。そう、「教育において大切な要素は何か?」という和田さんの問いかけだ。
先生たちのプラン、特に和田さんが指摘した箇所はおおざっぱなトピックだけが決まっていて、「はじめに●●をやって、次に××をやる。どんな質問を投げかければ興味をもつか、こういう方法を使えば楽しいだろうか…」と生徒の立場になって、プロセスを具体的にイメージしてもいないし、生徒自身が考えて自分で答えを見つけていくような内容にもなっていない。つまり、研修序盤で確認した「教育で大切なこと=疑問を持つ機会を与える」が全く生かされてないし、そもそも先生たち自身が授業プランを作るにあたって、表面をなぞらえるだけで考え抜いていない。そこを和田さんは鋭くキリキリと先生たちにツッコミをいれているのだ。

そんな和田さんからツッコまれてあれこれ言い出したり、しどろもどろになっている先生たちと自分の姿が重なる。
これまで、私も仕事でイベントやセミナー、ときには研修のプランづくりを担当することがあった。そこで何をするか、何を得てもらうかを、相手の立場にたって具体的に考えることなく、トピックだけなぞって、結果、出来上がるのはリアリティのない自己満足の企画。そんな失敗もよくある。(私の場合、ここまでキリキリとツッコまれたら早々に音を上げてしまうが、先生たちはタフだ。)
ネパール人だとか、日本人だとかは関係なく、落とし穴は同じなのだ。

ここまで読んでいて、「あれ?ずっと前にも和田さんと先生たちのあいだで、こんなやりとり見たことあるぞ?」と思った読者の方々。お察しのとおり、ほぼ同じやり取りが過去にもあったのだ

和田「これだとトピックを挙げているだけですよね。例えるなら、私はメニューが知りたいんじゃないんです。“どうやって料理するか”を知りたいんですよ。」
先生「えーっ、それならもっと時間が必要ですよ!」(他の先生たちが一斉に笑う)
和田「いや、だから「もう発表を始めても大丈夫なのか」と聞いたんです。今度はどれか一つのトピックでいいです。ひとつひとつを詳細に考えて。生徒が退屈しないように。授業が生き生きしたものになるようなプランを考えてみてくださいよ。」

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5.相手の立場になって考える

さて、やり直しを命じられた先生たち。もう一度授業プランを練り直す。

やり直し

そんな先生たちのようすを見ながら、和田さんが話してくれたこと。
「相手の立場になって、どんなトピックだったら楽しいだろう、どう進めれば興味を持ってもらえるだろうってことを常に考えないと、ああいう授業プランが出てきてしまう。自分に引き付けて考えるというのは、メタファシリテーションにも通じるんだよね」(ここの会話は日本語)

そう、メタファシリテーションで重要なことの一つは、「自分が相手の立場であればどうか」を常に意識すること。
例えば、初対面の人に、いきなり「あなたの収入はいくらですか」と聞かれて答えるかどうか?日本人同士なら、まずそんなことは聞かない。でも、「国際援助」や「調査」と名がつくと、そうした想像力が働かなくなり、自分の聞きたいことを優先してしまう。つい初対面の村人に「あなたの収入はいくらですか?」と聞いてしまいがち。(このあたりは『途上国の人々との話し方』、その英語版『Reaching Out to Field Reality』を参照されたい。)
そんな落とし穴は、人と人が関わる場なら、どこにでもぽっかりと広がっているのだ。

さて、限られた時間ながら、和田さんに指摘された点を入れ込んだ授業プランを作った先生たち。
和田「だいぶよくなりましたね。一つコメントしたいのが、ここの「バグマティ川について知っていることを挙げる」というところですが、私からのアドバイスは、リストアップする数を決めるということです。10個でも20個でもいい。そうしないと、人間の心理として、一般的なことから取り上げがち。例えば「バグマティ川は聖なる川だ」など。そうした一般的なことが2~3個並んで終わってしまいます。一般的なことではなくて、その人の具体的な体験を引き出すのがポイントです。・・・今日の私のコメントはここまで。研修を終了します。みなさんの授業プランはタイピングしてメールで共有しますね。」

同じ失敗を繰り返しつつも、少しずつ歩みを進めている先生たち。
先生たちがそれぞれの学校でどんな授業プランをつくり、実践していくのか。
そのようすは、次号以降のプロジェクト通信でお伝えできると期待している。

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注意書き

チャタジー公子(さとこ)さん:環境教育の専門家として、副読本作成の側面から本プロジェクトのサポートをしていただいた。
でこぼこ通信14号第14号 「私のゴミの行方」(2014年10月29日発行)より
http://muranomirai.org/dekoboko-14

和田さん:ムラのミライ設立者、海外事業統括の和田信明。おなじみムラのミライの名ファシリテーター。
http://muranomirai.org/about/staff#a22

ミッシー:ムラのミライスタッフ、近藤美沙子。現在、ネパール事務所に長期出張中。本人たっての希望により、ニックネームのミッシーの名で本通信に初登場。
http://muranomirai.org/about/staff#a14

スンダリジャルからチョバールまで訪問する:モデル・レッスンでは上流のスンダリジャルから下流のチョバールまでの4~5か所で川を観察し、水質検査をおこなう。
モデル・レッスンのようすは、
でこぼこ通信第8号「マジシャンとファシリテーター」http://muranomirai.org/dekoboko-8を参照されたい。

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