第17号「事業の終わりこそ、デシェ住民の活動の始まりである」2015年3月3日発行

In 801プロジェクト通信 ネパール「バグマティ川再生 でこぼこ通信」 by master


目次

1.  思い込みの罠 ~わかったつもりの「メンテナンス」の意味~
2. 本当はわかっていないことがわからない私たち
3. DEWATS竣工式 ~祭りの準備でみせたネパール人の底力と魅力~
4.おわりに

写真1

2015年2月。
デシェ村の家庭排水処理施設(DEWATS)が遂に竣工した。
2014年8月13日から始まった建設作業はおよそ半年間の期間を経て無事完成することができた。なんと大変な建設作業であったことか。
質を確保しながら予算額で納期までに建設を終了させることを目標に、現場監督のラングーも、ソムニード(現ムラのミライ)スタッフのディベンドラもウジャールも、会計を担当するプリティもマニークも、ネパール事務所スタッフが連日現場に張り付いた。
忙しいディベンドラが毎日建設現場に出向かなくて済むようにと、現場監督者としてラングーとウジャールを現場に配置していたが、特に中盤から終盤にかけてディベンドラもほぼ毎日のように張り付く羽目になっていた。
いろいろあったんだろうな~と読者の方には想像力豊かに想像して頂きたい。

写真2

1. 思い込みの罠 ~わかったつもりの「メンテナンス」の意味~

前回の通信では、1)川が汚れているということは、ヒトの体内を循環する血液が汚れていると体の調子が悪くなるのと同じように、川が汚れていると土壌の健康状態が悪くなり、結果的に自分たちのつくる作物に影響が出るということや、2)汚れていると一言でいっても一体どのような状況でどの程度汚れているのかということを、指標を使ってわかりやすくデシェ村住民に、研修を通じて理解してもらったところをお伝えした。
そして施設が竣工した今、とても大事なのはメンテナンスである。
もちろんデシェ住民へは、施設の構造や仕組み、そして運営・管理方法については一通りの研修を行ったが、それだけでうまくいくと期待してはいけない。
自動車教習所で知識をつけただけでは、一般車道での運転はできないし、技能習得のためにはインストラクターに付き添ってもらいながら練習を重ねなければならない。同様に、デシェ村のヒトたちだけでメンテナンスをきっちり行えるようになるまでは、私たちのフォローアップが必要である。フォローアップをするためには、フォローアップをする側が理解していなければならないのは当然のこと。

建物が竣工し、後片付けや不具合がないかといった現場での最終チェックを行っているころだった。そろそろ施設のメンテナンスのことが気になってきた私。

私 「ディベンドラさん、互助組織のヒトたち(そしてディベンドラさん自身もという意味も込めて)、メンテナンスのことちゃんと頭に入っていますよね?彼らと何かそういう話をしたこと、ありますか?」
ディベンドラ「うん、大丈夫ですよ。定款の中にも、メンテナンスの条項があって、メンテナンスのためのアクションプラン(行動計画)やカレンダーも作ることっていう記載があるんだよ。僕もカレンダー作りをお手伝いしようと思っている。」
私 「ふ~ん。そうですか。アクション・プランやカレンダー作りまで皆さん考えているということならまぁ、大丈夫ですかね。わかりました、じゃぁ、引き続きフォローアップお願いしますね~。」
そして1週間後。
また同じ質問をディベンドラにしてみる私。
私 「で、ディベンドラさん、そろそろカレンダーとか、或はアクションプランとか、その辺、どうなってるのか状況教えてください。」
ディベンドラ「今、それどころじゃなくて、他の対処しなければいけないことで追われていてまだできてないんですよ。」
私 「・・・そうですか。」
ディベンドラと話をしても、多分何も出てこないだろうと思ったので、現場監督をしているエンジニアのラングーならテクニカルなことも理解しているだろうし、村の人たちとの交流もある。何か聞けるかもしれないと思い、私のターゲットはラングーへ。
私  「ラングー、現場の点検や片付け等で忙しいところ申し訳ないんですけどね、メンテナンスのことについて教えてもらえませんか? 因みにメンテナンスって一体何と何をいつしなきゃいけないか、知っていますか?」
ラングー「簡単ですよ。それほど難しくない。定期的にセトラーやABRなんかに溜まった汚泥を取りのぞく必要があります。」
私 「いつ取り除くんですか?」
ラングー「1年に数回程度でオッケー」
私 「どうやって?」
ラングー「機械で汲み上げます。」
私 「誰が?機械はどこにあるんですか?どこから借りるの?買うの?」
ラングー「レンタルはその辺からできます。それほど高くないと思うけど」
私 「その辺?どの辺?年数回の汚泥や沈殿物の汲み上げだけで本当にいいの?他は?パイプライン(排水管)やマンホールのゴミの詰まりチェックはしなくていいのですか?」
ラングー「もちろん、それもしなければなりません。」
私 「じゃぁ、一体何と何と何がいつどのタイミングで誰にチェックされる必要があるのか、細かく書き出して一覧にしてから、私に教えてください。私がわからなければ、村の人たちに説明できないし、私がわからなければ、ディベンドラもわからないということですよ。」
ラングー「わかりました。リストを作りますね。」

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2. 本当はわかっていないことがわからない私たち

私 「ところで、あなたは稲を作ったことありますか? 」
トピックを変える私に面食らうラングー。いきなり何の話?という顔をしているのだが、優しいラングーは私のやりとりにつきあってくれる。

ラングー「もちろん、ありますよ。家で作ったことがあります。」
私 「あなたはエンジニアだけでなく、稲も作った経験があるんですね。すごい! 私は作ったことがないので、作り方を教えてください。」
ラングー「まず土を耕します。」
私 「何で耕すんですか?」
ラングー「クワです」「牛を使ってもいい。」
・・・ しばらくやり取りが続く

ラングー「それから苗を植える」
私 「えー!いきなりそこで苗登場? 苗はどこから手にいれるんですか?」
ラングー 「あぁ、それは買えば手に入りますよ。」
私 「どこで?いつ?」
ラングー 「苗を買える場所がある。いつ購入って、それはもっと前に、ですよ。」
私 「ってことは、土を耕す前からですかね。」
ラングー 「そうですよ。」
私 「私、そんな初心的なことも知らないんですから、いきなり苗を事前に買っとくなんてこと知らずにやってたら稲作れないじゃないですか!手遅れになるでしょう?もっと初心者でもわかるように順番に一番最初から抜けもれなく丁寧に教えてくださいよ。」
ラングー 「・・・・」「マニュアルのリスト、念のために、プラジャールさんにもう一度細かく確認してからリストを作りますね。」
私 「よろしくー、ですよ! お願いしますね。何もわかってない私がわかるメンテナンスのマニュアルじゃないと意味がないんです。」

初めて稲を作るとき、何も知らない私は、本当に基礎(きそ)の「き」から教えてもらわなければできない。必要な道具や、何をどのタイミングでどこでどれくらいの量必要なのか、といったとても沢山の知識が必要となる。DEWATSのメンテナンスは稲を作るプロセスとは異なり、とても単純である。単純で誰でもできるくらいだからこそ、この地域単位での運営が可能となる技術である。しかし、このメンテナンスでさえ、初めてやる人にとっては一体どのような工具が必要で、誰が何をするのかということをもれなく、ポイントを抑え、なおかつ誰でもわかるように簡単に説明しなければならない。稲に関する私の下手なやりとりを通じて、聡いラングーは、私の言わんとしていることを汲み取ってくれたらしい。

写真3(マニュアルブック)

しばらくしてからいつもの如く、マニュアルのリストはまだか~まだか~と、ラングーと顔を合わせる度にこちらから進捗を確認した結果、割と早い段階でプラジャールさんからマニュアルブックが届けられた。
英語のマニュアルブックであったため、ネパール語のマニュアルブックは無いのかと確認するとそれは無いらしい。
ネパールにおいて、ネパール語のマニュアルブックが無いということに多少の驚きは隠せないものの(期待もしていなかったが)、そもそも英語マニュアル本の英語の文章が小難しい。わかるような、わからないような、詳しく丁寧に難しく書いてある印象が否めない。やっかいなのは、わかったような気にさせる内容のマニュアルだが実は本当はわからないところも多いというところだ。仕方がないので、自分で一から現場でマニュアル通りに実践し、ラングーと一つ一つ確認しながら、簡単に咀嚼し、沢山の写真を散りばめた、サラサラよめるネパール語のマニュアルブック作りをしようということになった。

ディベンドラやウジャールは他のことに手をとられ忙しかったため、私とラングーを中心としたマニュアルを作成中であるが、肝心のディベンドラとウジャールは、このマニュアル作りの重要性をあまり認識していないような気がする。そもそもディベンドラに、「メンテナンスって何と何をしなきゃいけないんですか?」と随分前に確認したときの彼からの返答は「簡単だよ。機械を使って汚泥を汲み取ればいい。」というまさにラングーと同じコメントが返ってきたのだ。
彼のこの認識は、デシェ村の互助組織の人たちと恐らく同じで、互助組織の人たちも、同じように簡単に考えているのだろう。どうりでマニュアル作りが進まないわけだ。みんなあまりよくわかっていないのに、できると思っている。一体何ができるのかということを詳しく突っ込んで確認しないと、相手の「できるよ」「知っているよ」という答に騙される。悪気の無い彼らの言葉に騙されてはならない。こちらの質問の仕方、あるいは実際に現場で確認しないことが悪いのだ。お陰で私は随分と懐疑心の強いヒトになってしまったと思う。それはともかく、できることとできないことがあるのだから、できることからひとつずつ、自分を責めずに(←ディフェンシブな私)、まずはマニュアルをつくって、こういうことに関してはあまりデシェ村の人たちと変わらない認識をもっているディベンドラとウジャールに、まずは理解してもらおう。そして彼らにデシェ村の人たちに説明してもらえるよう、時間の許される限りやってみようと考えている。

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3. DEWATS竣工式 祭りの準備でみせたネパール人の底力

2015年2月28日(土)
ここ最近暖かくなったり、急に雨が降ったりと曇りの日が多いカトマンズであったが、この日は天候に恵まれた。
朝9時からデシェ村におけるDEWATSの竣工式がDEWATSユーザーズグループ(互助組織)主催で執り行われた。沢山の政治家や政府役人、そしてムラのミライ、ソムニードネパールスタッフも招待されたので出席してきた。そして本事業のドナーである在ネパール日本大使館からも参列頂いた。

写真4
古き伝統を受け継ぐネワール族のコミュニティ・デシェ村。
デシェ村の笛と太鼓を使った音楽で迎え入れられた私たち式典参加者による3時間弱に及ぶスピーチとセレモニーの中で、特に印象に残ったことは2つある。

写真5

一つは、このプロジェクトの開始は4人のデシェ村女性によって始められたという点がスピーチ内において改めて述べられた点だ。プロジェクト開始当時、デシェ村には村の正確な地図が無く、村の世帯数も把握されていなかった。ざっくり200世帯位かな~という程度。そこで、村のことを詳しく知るためにも、そしてより精度の高いDEWATSを設計するためにも、4人のデシェ村おばちゃんたちが立ち上がり、研修を受け、自分たちの娘・息子、家族を巻き込み世帯調査に住宅地図(ソーシャルマップ)を作ってしまったのだ。
式典に参列したある有力な女性政治家は、「この4人の女性たちの取り組みは素晴らしい。また、この村の散乱していたプラスチックゴミが減るといった変化がもたらされていることにも気がついた」と述べていた。
二つ目は、改めて認識させられた、ネパール人のお祭りに対する価値観と熱意である。
この竣工式開催にかかる費用を賄うために、住民から集められたお金の総額はなんと10万ルピー以上。平均的な労働者の一ヶ月の賃金が一万ルピー程度であることを考えると、これはすごい額である。177世帯が住むデシェ村で1世帯あたり1000ルピーあるいはそれ以上が集められたということなのだ。その費用は、例えばスピーカーやマイク、住民や式典参列者が座るための椅子のレンタル料、会場の飾り付けなどの設置にかかるコスト、簡単な軽食を準備するための食材などに充てられる。デシェ村のヒトたちは大半が農業を生活の糧にしており、日雇い労働の日銭に頼った暮らしを営んでいるヒトも少なくはない。そんな彼らがお祭りのようなイベントには惜しみなく現金を差し出し、村のための行事への金銭的・物理的な貢献を行う。デシェ村の人たちの、お祈りやお祭りをとても大事にする精神と価値観を改めて認識させられるとともに、敬意を表したいと思った竣工式であった。

写真6
写真

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4. おわりに

デシェ村での建設事業は終了したが、これからも施設のメンテナンスや互助組織の管理運営の観点からのムラのミライによるサポートは続く。今後デシェ村の住民がどのようにして実際のメンテナンスを行うのかといったことはまた追って報告したい。次回の通信では本通信15号以来となる、環境教育の先生方とのその後の活動について報告する予定である。

互助組織=施設の管理・運営のためにデシェ村のヒトたち自らが「組合を作る必要がある!」と言い出し(ムラのミライの研修でのファシリテーションで、村の人たちに言わせた)、デシェ・DEWATS ユーザーズ グループ(Deshe DEWATS Users Group)を設立。グループの定款まであり、市に登録までされた正式な管理組合のこと。

プラジャールさん=DEWATSをデザインしてくれる人。DEWATS建設にかかる外部専門家。

本事業=カトマンズの住民によるバグマティ川の汚染防止を通じた生活環境改善プロジェクト。外務省 日本NGO連携無償資金協力国際協力重点課題事業(2014年2月~2015年2月)

写真=前から2列目中央(左から5人目)在ネパール大使館星野一等書記官。同じく2列目右から3人目:ムラのミライ設立者和田信明共同代表。2列目一番左:ムラのミライスタッフ(田中)、同列左から2人目:著者

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