でこぼこ通信第6号「信じろ。そして少しだけなら期待していい」

In 601プロジェクト通信 ネパール「バグマティ川再生 でこぼこ通信」 by master

 

目次

1.悪いのは誰のせい?
2.ノーペイン・ノーアクション(No Pain, No Action)
3.ここはネパールか?驚異的なスピードを見せるネパールの先生たち
4.終わりに

ネパールの雨季は5月下旬頃から9月下旬頃まで続き、とてもよく降る。
雨季になると嬉しいことの一つは、計画停電の時間が一日平均9時間から4~5時間位に短縮されるということ。
そして雨季で悩まされることの一つは、半端ではない湿気。
毎日降り続く大量の雨に、気が付けば家中がカビだらけなんてことはよくあること。
ネパール生活初心者の私は、この湿気に本当に泣かされた。
1 Power cut schedule
そんななか、日本からゴミ処理・リサイクルの専門家萩原さん(通称、ハギさん)がやってきた。
今回で、ネパール訪問が2回目となるハギさん。
1回目の訪問は2012年の11月下旬の乾季の真っ只中。
そして今回は、とてもよく雨の降る7月。
バグマティ川の水量も格段に増え、ゴミの匂いも軽減される時期だ。
その頃研修生はというと・・・
昨年末から始まり、半年をかけた全6回のソムニードの研修を、ちょうど終了したところ。
乾季のバグマティ川に何度も、何度も足を運び、室内研修でも、バグマティ川やゴミ問題について考え学んできた。
そしてソムニードのフィールド研修で経験したことを参考に、今度は自分たちの生徒をバグマティ川へ連れていく課外授業を行う準備も行ってきた。
2. Trainees in traing
しかし、ソムニードの研修では、学ぶこと聞くこと体験すること全てにおいて、研修生にとっては新しいことの連続
消化しきれないことや、もっと知りたいと感じる点も沢山出てきた。
そこで、研修生からの熱い要望に応える形で、名古屋市からはるばるやってきたリサイクルの神様、ハギさんの登場である。
1ヶ月間の滞在期間中、合計6回の研修をハギさんが担当することになった。

 

1.悪いのは誰のせい?

2回目のカトマンズ訪問とはいえど、研修生に会うのは今回が初めてのハギさん
ネパール人研修生と初対面し、ほんの少しだけ緊張したハギさんのファシリテーション研修が始まった。
3. Hagi san training
ハギさん「皆さん、ナマステ~。日本の名古屋市からやってきましたハギワラです。」

ハギさんの自己紹介の後、名古屋市で実際に起こったゴミ処理問題とその取り組みについての紹介があった。
そしてハギさん、切り出した。

ハギさん「皆さんは、バグマティ川にゴミを捨てたことがありますか?」
研修生「ありません。直接川に捨てたことはありませんが、間接的に捨てられているかもしれないです。」
ハギさん「じゃぁ、皆さんが捨てたゴミが移動してバグマティ川に行くのでしょうか?誰がバグマティ川に捨てるんでしょうか?」
研修生「回収業者がいます。ゴミ収集者がゴミをバグマティ川に捨てているんだと思います。」
ハギさん「じゃぁ、今度は是非、自分のゴミ袋に名前を書いてみてください。そうしたら自分のゴミがどこに持っていかれているかがわかりますよね。(笑)さて、ここで悪いのは誰なんでしょうか?あなたが悪いのですか?それともゴミ業者?」
研修生「・・・・」
研修生「自分たちはゴミをコントロールできないので、ゴミの仕組み(処理のシステム化)があるべきだと思います。」
ハギさん「えっ?本当に?ゴミはコントロールできないですか?」
研修生「行政だけの問題ではないと思いますが、私たちには何もできません。」
ハギさん「う~ん。僕はすごく不思議です。だって、ゴミを捨てているのは自分たちだといっているのに、何故そこでコントロールできないんだろうって。
おかしいでしょう?
じゃぁ、悪いのは回収業者?それとも行政?」
ハギさん「仕組みがないし、何もできないって皆さんは言いましたけど、でもあなた方は先生で、子供たちに「仕方がない。政府が悪いんだよ」と教えるつもりですか?
研修生 「・・・・・・・」
研修生 ・・・撃沈。
4. Hagi san in front of a whilteboard
ハギさんから繰り出される質問に応える研修生とハギさんとの対話で、明らかになったこと。
「あ~、やっぱりまだまだヒトのせいにしてる。」

ソムニードの6回の研修を受けて、子供たちへの課外授業をデザインする研修も受け、子供たちへ伝えたいメッセージを考えながらも、研修生の頭の奥底には、「やっぱり政府が悪い」っていう思いが強く残っているということだ。

他人のせいにするのは簡単。自分は変わらなくていいのだから。
何もやってくれない政府が悪い。
自分には何もできないから政府が変わるべきだ、と。
ハギさんの「子供たちに、『仕方がない。政府が悪いのだから』と教えるのですか?」という鋭い指摘に、研修生一同、はっとした。
それじゃぁ、ダメなんだ。
5. Trainees

目次へ

 
2.ノーペイン・ノーアクション(No Pain, No Action)

そして続けるハギさん。

ハギさん「これ、見てください。」
と、ピンク色の包帯でグルグル巻きになっている左足を突き出してみせた。
6. Left leg fractured in pink
ハギさん「足が折れました。エベレストに登ろうとしてレストランエベレストで折れました。ノーマウンテン」

通訳泣かせの英語を織り交ぜながら話すハギさんの言葉を補足するとこうだ。
実はハギさん、ネパールに到着後3日目にして、雨が降った後の滑りやすいレストランのフロアで足をすべらせ骨折してしまったのだ

そしてハギさんは続けた。

ハギさん「骨を折った時に僕はどうするかということです。
転んだ後、僕は骨折をしているということを知らなかったので何もしませんでした。痛み始めて漸く病院に行ったのです。皆さんは、ゴミを出して痛みを感じますか?」
研修生「いいえ。ゴミを回収業者に渡したら、それで終わりです。」
和田 「私は痛みを感じますよ。いつも家でゴミの分別をしているのに、業者に持っていかれる時は全部一緒くたにされる。その時に私はココロに痛みを感じます。」

ハギさん「つまり僕の骨折と同じなんです。僕は痛みを感じて初めて病院に行きました。最初は、病院なんかに行きたくなかったんですよ。骨折してると思いたくなかったですし。でも痛みがあると、行動を起こさざるをえない。痛いから。
ゴミとか川の汚れも同じです。ゴミとか川の汚れというのは、わかりにくい、つまり痛みがわからないということなのです。ソムニードの研修を経験してきたあなた方先生は痛みを感じるかもしれないですが、カトマンズの他の市民は感じない。だけど、その痛みは直接的に戻ってくるんですよ。」

ハギさん「皆さんとのやり取りを通じて感じたことですが、皆さんは本当にゴミに困っているのかな?と疑問に感じたのです。」
7. Vicious cycle
意図せずして(もちろんのこと)骨折をしてしまったハギさん。
しかも1ヶ月間の滞在のうち、到着してたった3日目の骨折だ。
雨季のカトマンズを骨折した足で移動するのは困難そのものだが、その骨折をネタ(例えに)にハギさん流ファシリテーション研修を繰り広げるハギさんに感動した私。
誰もゴミに痛みを感じていない、つまり問題だと思っていないから何もしない。
痛みが無ければ当然病院にもいかないし、誰も真剣にゴミに向き合わないだろう。
骨折の痛みとゴミの痛みの例えがあまりにも明確でわかりやすい。

思わず、
「萩原さん、骨折、無駄じゃなかったですね!!」と萩原さんに伝えた私であった。
8. Hagi san facilitating with a fractured leg

目次へ

 

3.ここはネパールか?驚異的なスピードを見せるネパールの先生たち

降ったり止んだり、時折ヒトを飛び上がらせるような雷の音とともに落ちてくる豪雨のなか、不便な松葉杖生活にもめげず、ハギさんとソムニードは積極的に動いた。

前回の訪問時には実現しなかったネパールの学校訪問を行いたいということで、ネパールの一般的な学校の一つとして、アイレンズスクールという学校を訪問した。
9. At Eyelense school group photo
ネパール訪問はまだ2回目のハギさんにとって、ネパールは未知の国。
とにかくネパールは
ビスターレな国で文化もヒトもぜーんぶビスターレ。」
「ネパールの辞書に「効率」という言葉は無い・・・かもしれない」
といった感想を、ソムニード日本人スタッフに吹き込まれてきたハギさん。

ビスターレなネパールを想像してやってきたハギさんの予想を、見事に裏切る結果となったのがこのアイレンズスクール視察。

まずハギさんを驚かせたのが、これ。
10. Categorized dustbin
ここの学校では、全ての教室のゴミ箱に「プラスチックのみ」「古紙のみ」「それ以外」と記された紙を貼ってゴミの分別を行っていた。

そして飲料水の設置
11. Water jars installed
ネパールでは、適切な処理が施された飲料水の確保が課題の一つとなっている。
そのため蛇口から出てくる水は安全な飲み水とは言えず、飲料水用に処理された写真のような20リットルの水ボトルを設置することが望ましい。

アイレンズスクールでは、上記のように校内で出たゴミを大まかに分別することで得られた資源ゴミ(古紙やボトルやプラスチック製品)を業者に売り、その売上金を飲料水購入費にあてているという。

また、分別し資源ゴミを回収するという行動は、学校内だけにとどまらず、子供たちが家族を巻き込んで自宅でも実践しているというのだ。
そして分別した資源ゴミを自宅から学校へ自発的に持ってくるようになったという。

研修が始まる前にソムニードスタッフが事前訪問をした頃、
鉛筆の削りカスやお菓子の袋などで床がゴミだらけだったこの学校。
そんな学校が見違えるように綺麗になった。

なによりもハギさんを驚かせたのが、アイレンズスクールが見せた驚異的ともいえるスピード感
ソムニードの研修が終わる前から、この学校ではゴミの分別や集団回収で資源ゴミを業者へ売り、そのお金を生徒たちのための資金に充てるという活動を開始し、ハギさん訪問時点で早3ヶ月が経過していた。

たった6回のソムニードの研修で研修生たちの間でこれほどまでの自発的な活動がみられるとは、想像すらしていなかったハギさん。
ましてや「ビスターレな国、ネパールで」、である。
12. Biotope at Eyelense school
ハギさん曰く
「国を問わず、どこの研修も普通は『研修は研修』。
研修内容が実際の活動に結びつく例は、ほとんど見られない。日本国内での研修だって同じ。日本で研修を受けた日本人だって、アイレンズスクールほどの動きはそうみられませんよ。」

だそうだ。

ソムニードの研修の効果がこれほどまでに明確に、そしてこの時点でここまで現れるとは、正直なところ思ってもいなかったソムニードスタッフ。

ソムニードの隠れモットー「信じろ だけど期待するな」は
もしかすると
「信じろ そして少しだけなら期待していい」
でもいいのかもしれないと、思わずにはいられない出来事であった。
13. Eyelense school students
ハギさん滞在時にアイレンズスクールには2度訪問する機会に恵まれた。
2回目の訪問時には、ハギさんの研修内容が既に反映された活動もみられた。
この学校のフットワークの軽さにスタッフ一同再度驚かされ、この先生たちなら、30年後には美しく蘇ったバグマティ川で泳ぐことを可能にさせるのではないかと強く感じた。

目次へ

 

4.終わりに

到着後3日目の左足骨折という災難をモノともせず、白熱した研修を行ったハギさん。
熱血のあまり、医者からの「左足に体重をかけないで安静にするように」という助言も、ギプスをしていることすらも忘れ、思わず立ち上がって研修室内を歩きだそうとするハギさんをソムニードスタッフが何度も制止する場面がみられた1ヶ月であった。

そんなハギさんの研修に、引き込まれるように耳を傾けていたのは、研修生だけではなく、ソムニードスタッフも一緒である。

ハギさんの研修の御蔭で、ソムニードのファシリテーター和田がメインとなって行ってきた6回の研修の効果も確認された。簡単な口頭インタビューではあったが、アイレンズスクールを筆頭に、実に多くの研修生が自分の学校で何らかの形で、研修で学んだことを既に実践しているということがわかった。

ハギさんの1ヶ月間の研修を受け、日本の事例、そして心のどこかでまだ他人のせいにしてしまっていた自分と向き合い、未来の子供たちへバグマティ川を残すためにはどうしたらいいかという具体的な方法論を学び、実践してきた研修生。
14. Trainee's greenmap making
今通信では触れることができなかったハギさんからの学びについては、次号以降の通信でも引き続き触れつつ、今後の研修生の活動についても注目することにする。

全6回の研修も、萩原専門家による研修も全ては、研修生が学校の生徒たちに、教育担当の先生として、バグマティ川について「何を何の目的のためにどのように伝えるかということ」を、考えるために行ってきたようなものである。(もちろんそれだけではないが)
15. Group photo
次号では、いよいよ過去の研修の成果をぎゅっと凝縮した1日の校外学習に奮闘する研修生の様子(そして、モニタリングに徹するはずのソムニードスタッフ(ディベンドラと私)の失敗っぷりも)をお伝えする。

目次へ

 

注意書き

計画停電:ネパールでは電力供給量が需要量に満たないため、1日24時間の通電は年間を通してまず無い。雨季に入る前の停電時間が一日8時間から9時間予定されていたのが雨季になると5時間に短縮される。

ネパール初心者の私:本通信の語り手、池崎翔子。本事業のアシスタント・プロジェクト・マネージャー。
2012年7月から8ヶ月間のインド赴任を経て、インド事務所からネパール事務所へ着任して漸く半年。いろんな場面でネパール人に泣かされ、最終的にはネパール人の心の優しさに胸を打たれこれまた涙目。ネパール駐在生活での奮闘っぷり(結果、よく負ける)はいつか通信でも紹介したいと考えている。

萩原さん(通常、ハギさん):萩原喜之専門家。
30年以上にわたり、名古屋など中部地域を中心に、リサイクル、環境改善などにかかわる市民活動を牽引。日本の環境問題にかかわる市民活動の世界におけるリーダーのひとり。
(特活)「地域の未来・志援センター」理事長、(特活)「中部リサイクル運動市民の会」創設者・顧問、(特活)「エコデザイン市民フォーラム」代表理事。

新しいことの連続:ソムニードの研修に脳みそを沸騰させながらグループワークに取り組む研修生の様子は前回までの通信をご覧ください。

研修生に会うのは今回が初めてのハギさん:1回目の訪問時はまだ本事業開始後まもなくのタイミングであり、ソムニードの研修の準備段階にあったため、事業を一緒に行っていく学校の先生たちと出会う機会がなかった。

骨折してしまったのだ:更に補足すると、凹凸の無いフラットなフロアで足を滑らし、人生初のギプスをネパールで経験することになってしまったハギさんの「ボケ」が「レストランエベレスト。ノーマウンテン」(山のないレストランなのに滑って転んだ)ということだ。

ハギさん流ファシリテーション研修:ソムニードの活動方法論・ファシリテーションについては以下のリンクを要参照http://somneed.org/methodology/

「萩原さん、骨折、無駄じゃなかったですね!!」:カトマンズへ出発前に萩原さんから持ってくるべきものを相談され、「雨季だから長靴絶対いりますよ!!」と声を大にして伝えた私。レストランの床で足をとられ骨折したその日は私のいいつけ通り(底が滑りやすいゴム製)長靴を履いていたために、「骨折の原因はお前のせいだ~」と言われ続けているのである。

アイレンズスクール:もちろんソムニードスタッフは事業対象地域の小中学校の視察訪問を何度も行ってきている。

ビスターレ:ネパール語で「ゆっくり」という意味。ネパール人の口癖は「ビスターレ、ビスターレ」なのである。

20リットルの水ボトル:この20リットルの飲料水は一つにつきおよそ50ルピー(約50円)である。ソムニードのネパール事務所にも設置している。

スピード感:実はこの学校、校長と理事長の二人がソムニードの研修に参加していた。
最初は校長がソムニードの研修に参加し、校長から強く勧められた理事長も参加することになったという経緯がある。校長や理事長のように権限を持ったヒトがソムニードの研修に参加したことによって、この学校では学校全体でゴミの分別が取り組み可能となったようだ。

ハギさんの研修内容が既に反映された活動:例えば、研修で紹介された霞ヶ浦アサザ基金のビオトープの例や、グリーンマップ作りの実践など。グリーンマップ作りの詳細については今後の活動通信で報告したい。

目次へ