でこぼこ通信第5号 「目的の無いモデルレッスンなんてありえない!」

In 601プロジェクト通信 ネパール「バグマティ川再生 でこぼこ通信」 by master

 

目次

1.やっぱり、「なんのために、わざわざバグマティ川に行くのだろう?」
2.目的の無い行動計画表
3.ポカラに行く
4.まだまだ研修は続く
5.終わりに

前回までの研修でバグマティ川の上流から下流を何度も訪れてきた研修生たち。
バグマティ川にもいろんな顔があるということに初めて気がついた。
そして、今までさほど意識したことがなかった研修生が、バグマティ川に対して次第に愛着を感じるようになってきたのも事実。バグマティ川を知れば知るほどバグマティ川の未来が気になる研修生。それは、気になるヒトのことを知れば知るほどそのヒトへの想いが募るのと同じだ。

①
②
バグマティ川についてよく知り学ぶと同時に、環境の授業をデザインする(組み立てる)ことにも取り組んできた。研修生たちは地元の小中学校からの環境教育担当の先生たち。この先生たちの一般的な環境授業のスタイルは、環境の教科書の内容を生徒たちに読み聞かせるという、とても一方通行な室内授業だ。そんな先生たちだから、子供たちがバグマティ川について学ぶための授業を組み立てて実践するということは経験したことがないし、考えたこともなかった。経験したこともなければ、みたこともないことに挑戦することは誰だって難しい。授業をデザインするという研修に何時間もかけて取り組んできた先生たちだが、その作業は難航していた。

今回が、全6回の研修の最終回となる。
この残す二日間の室内研修で、なんとかデザインを完成させ、今後のモデルレッスンとなるような校外学習(以降、フィールド・トリップ)は果たして無事実施されるのだろうか。

 

1.やっぱり、「なんのために、わざわざバグマティ川に行くのだろう?」

第5回目の室内研修でも「フィールド・トリップをデザインする」というお題に取り組んだ研修生。
その時に研修生たちが設定したフィールド・トリップの目的は
「バグマティ川に生息する動植物、水温、水質などについてよく知る」
ということであった。

そしてこれら目的を1日で達成するために、子供たちをグループ分けし、グループリーダーを決定、観察と結果の共有の時間、そして、おやつの時間を設けた行動計画表が出来上がった。

③
しかしこのデザイン、肝心なところが抜けている。
いったい何のために、バグマティ川に生息する動植物、水温、水質を知る必要があるのかということだ。
川の水温を知ってどうなるのだろう?
川の水質を測って数値を知ってどうなるのだろう?
何のために子供たちはそれらを知る必要があるのだろう?
これらの活動(観察や水温、水質検査)の目的が明確ではないまま一日の行動計画を作ってしまった前回までの研修生。

そこで今回、ソムニードの研修ファシリテーター和田から以下のお題が研修生に与えられた。
お題1.フィールド・トリップの目的設定
「子どもたちに何を理解してもらいたいか」
「子どもたちに何を学びとってもらいたいか」

お題2.以下の表を参考にデザインすること

nepal_h

④
午前中にソムニードの研修施設に集まった研修生。
丸一日をめいっぱい使って上記課題に取り組んだ。

目次へ

 

2.目的の無い行動計画表

夕方になってもまだまだ課題に取り組む研修生。
そこで、話し合ったところまでを一旦共有することになった。

ところが、、、、グループディスカッションの結果を聞いてびっくり。
なぜか全てのグループが、お題1をすっ飛ばし、お題2の表の穴埋めから取り組んでいたのだ。いったい、何のためにお題1が、お題2の前にあるのか。
それがすっかり無視されてしまった。

⑤
前回までの研修で、目的が明確でないままに一日のフィールド・トリップの行動計画表を完成させた研修生。今回はその目的をより設定しやすくするために「子どもたちに何を理解してもらいたいか」「子どもたちに何を学びとってもらいたいか」という二つの質問が与えられたのに、なぜか皆すっ飛ばす。
これじゃぁ、前回の研修の時の成果とほとんど変わらない。

お題1を考えることなく、取り組んだお題2の表の内容も、例えば、
1) 地理的な構造を理解する
2) スンダリジャル(上流)に生息する動植物について知る
3) ヒトの居住地と近い川の環境を知る
4) ヒトと川の相互作用について理解する
5) 水の性質について知る
であった。研修生が前回共有した内容(「バグマティ川に生息する動植物、水温、水質などについてよく知る」)とほとんど変わらない。
ここで、なぜお題1をすっ飛ばしてお題2から始めたのかを問うても仕方がない。

目次へ

 

3.ポカラに行く

ここで研修のファシリテーター・和田からひとこと。
「きみたちがやっていることは、簡単にいうと、つまり、
私はポカラに行きます。
ということと何ら変わり無い。ポカラに行くという行動は明確になっている文章だ。
私はおじさんに会いにポカラに行きます。
ここでは、おじさんに会いにいくために、ポカラへ行くという行動が明確になっている。
つまり、おじさんに会いにいくということが目的で、ポカラへ行くということが手段になるのですよ。
君たちは、何のために子供たちにバグマティ川の地理的な構造を理解してもらいたくて、何のためにスンダリジャルに生息する動植物について子供たちに知ってもらいたいんでしょうね?」
明確な目的無しにして子供たちをバグマティ川へ連れていっても、それはモデルレッスンではない。 単に子供たちを学校からバグマティ川へのピクニックに連れて行くことにほかならないからだ。
それを聞いた研修生たちの表情はさまざま。
なんとなくわかったかのような表情の先生もいれば、ピンときていない先生もいたようだった。
せっかく丸一日かけて作成した表も、翌日へ再度持ち越されることになった。

目次へ

 

4.まだまだ研修は続く

そして室内研修2日目。
今度はお題1から取り組み始めた研修生。
(よかった、、。と内心ほっとした筆者である)

⑥
フィールド・トリップのデザインになんどもダメだしをくらってしまった研修生。今までに学び気づいたことを整理し、その中から目的を決め、必要な事柄を抽出、そして順序建てるという、なんとまぁ多くのステップを要するこのデザインという作業。あまりの困難さに、「考えすぎて熱が出そうだよ!!!」と先生たち。
なんだかんだいいながら二日目の研修も夕刻に近づき、グループワークの共有タイムが訪れた。研修生が額に汗を流しながら集中して取り組んだ結果は以下の通りだ。

【フィールド・トリップの目的】
1.川の特徴について子どもたちが理解する(例えば、生物学的、物理的、社会経済的な特徴)
2.なぜ、そしてどのようにバグマティ川を保護するのかということに子どもたちが気づく

【期待される子どもたちの発見】
1.バグマティ川汚染の主要となる原因、そしてその汚染によるヒトへの直接的、間接的影響
2.ゴミの種類と減量方法

⑦
もちろん、研修生がデザインするフィールド・トリップに正解や不正解はない。
「何のために子供たちをバグマティ川にわざわざ連れていくのか。」や
「子供たちに何をしてもらいたくて、何に気がついてもらいたいのか」
という問いに明確に答えることができればそれが目的だ。
あとはその目的をどのような手段で達成するかということだけだ。
手段については、ソムニードの過去の研修で実際に研修生が経験してきたことを活用すればいい。溶存酸素濃度測定器を使った測定や、バケツや掬い網を使った水中動植物の観察、簡易水質検査キットを活用した水質検査など、手段としての活動内容には事欠かない。
限られた研修時間内でフィールド・トリップのデザインを完成するには無理がある。
後は研修生個人の宿題となった。それぞれの研修生によって、担当する生徒数や学年も異なる。40名ほどの子供たちを川に連れて行くとどんなことが起こるかは想像に難くない。子供たちへの事前学習も必要だし、やるべき準備は沢山ある。

目次へ

 

5.終わりに

ここで全6回の研修が終了した。
2012年の12月に始まったこの研修も気がつけば半年の年月が経っていた。
ソムニードの研修は脳みそが沸騰するまで知恵を搾り出すことが毎回求められる。決して簡単ではないこの研修に欠かさず参加した先生たちが、今度はいよいよ子供たちやその親たちにバグマティ川についての授業を行うことになる。
とはいいながらも、まだまだ先生たちも準備を行う必要があるのも事実。
もっと研修を受けたいと感じる先生からのリクエストに応えて、追加の研修が行われることになった。

次号では、いよいよゴミのリサイクルの専門家、萩原さんの再登場となる。

目次へ

 

注意書き

ソムニードの研修ファシリテーター和田:和田信明。ソムニードの代表理事、本事業プロジェクト・マネージャー。
http://muranomirai.org/about/staff#a22

観測地点:これら4つの観測地点は、ソムニードの研修で研修生たちが訪れた、バグマティ川が流れる上流から下流までの地点である。ここでいう上流と下流とは、事業対象地域(カトマンズ市内と郊外)を流れるバグマティ川の上流と下流である。

筆者:本通信の語り手、池崎翔子。2012年7月から8ヶ月間のインド赴任を経て、インド事務所からネパール事務所へ着任。

目次へ