でこぼこ通信第3号「体の五感でフルに感じたバグマティ川の今」

In 601プロジェクト通信 ネパール「バグマティ川再生 でこぼこ通信」 by master

 

目次

1.はじめに
2.体の五感で知ったバグマティの今
2-1.パシュパティナート地点(始発点)
2-2.ゴミ中間処理施設「テク」
3.バグマティ川について知ったこと学んだこと50個
3-1.バグマティ川下流は死んだ川?
4.環境の授業をデザインする
4-1.バグマティ川の真実
5.終わりに

 

1.はじめに

2012年7月に開始となったバグマティ・プロジェクト
調査などの下準備期間を経て2012年12月からいよいよ学校の先生たちを対象にした研修が始まりました。本プロジェクト通信では、日本人スタッフは和田と奈良原、そして現地ネパール人スタッフはディベンドラとウジャールでお送りしてきましたが、今回からは新しい日本人スタッフ池崎が加わりました。今後、奈良原に代わって池崎がプロジェクト最新情報をお届けいたします。今回の通信では、池崎がネパール到着後初めて参加した、小中学校の環境教育担当の先生を対象にした研修第4回目をレポート致します。

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2.体の五感で知ったバグマティ川の今

この日は第4回目の研修で朝からバグマティ川の下流域のフィールド調査の日。
前回のフィールド調査では、バグマティ川の上流から南下し事業対象地域の中間地点までの川の様子を調査した研修生。今回の目的は、その中間地点以南をバスと徒歩で移動し、バグマティ川、そして川の付近の様子を観察することにあった。
前回同様、水質検査項目の一つである溶存酸素濃度(DO)も各地点で検査した。

にとって始めてのバグマティ川との対面の機会。
川に関する予備知識は呆れるほど少なく、「この川は「聖なる川」で、近年の環境汚染が顕著な川。そしてとにかく臭うらしい」という知識レベルの私。とにかくフィールド調査で歩き、臭い、触れ、目でみて体の五感で川を感じてみようと意気込み、フィールド用の帽子とマスクを装備して河岸に降り立った。

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2-1.パシュパティナート地点(始発点)

1. 2-1 Pashpatinath
川の真ん中あたりの段差から小さな滝のように流れ落ちる川の色が、どす黒い。高低差のためだろうか、川の流れは全体的に早く、プラスチック系のゴミも一緒に流されている。既にこの始発地点から悪臭が漂っており、マスクの下で無意識のうちに鼻呼吸から口呼吸に変わっていた私。川から発生する悪臭と、近隣住民のトイレと化した河岸からの強烈な匂いが混合した状態だ。他の研修生もこの悪臭にしかめっ面だ。DO数値は0.71。1にも満たない。乾季である今の川の水量は、それほど多くはない。河岸には雑草が生えており、数羽の白い鷺が水中をつついていた。その他のトリや小動物は見当たらず、黒く濁る水中を泳ぐような魚を目で確認することはできなかった。
2. 2-1 Sagi
しばらく河岸を歩くうちにゴミ回収業者に出会った。河岸に停めた軽トラックの荷台にゴミが山のように積み上げられている。研修生たちのインタビューによると、彼らは二日毎に1日4往復、カトマンズ市内から最終ゴミ処理場のあるシスドルまで軽トラックでゴミを移動しているとのことだった。軽トラックの横では、資源ゴミとそうでないゴミをより分け、資源ゴミを三輪車(自転車に荷台がついた形)で運び出す作業者もいた。ここで多少のゴミリサイクルがなされているようだ。
3. 2-1 Gomi-gyosha
4. 2-1 Gomi recycling
川を下れば下るほど、川の流れはよどみ、悪臭も加速するかのよう。始発地点で既に匂いは耐え難いものであったことを考えると、下流の匂いは筆舌し難い。
下水道設置工事現場では、コンクリート用とみられる大きな砂の山が河岸を埋め尽くし、川の横幅も徐々に狭くなっていた。南下するにつれ、人の居住地域から河岸までの距離が短くなり、比例して河岸と川を流れる人間のゴミの量も増加している。支流とバグマティ川の合流地点では誰かの家庭菜園とみられる小さな畑にとうもろこしが植えられ、対岸では洗濯をする女性たちの姿がみられた。
5. 2-1 Sentaku jyosei
「ううう、、家庭生活排水が処理されることなく垂れ流される川のお水で洗濯するなんて、、洋服の汚れが落ちた気がしないだろうな、、。でも他に選択肢は無い、、、。」と感じた。

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2-2.ゴミ中間処理施設「テク」

カトマンズ市内のゴミは一度、ゴミ中間処理施設のある「テク」で回収される。テクでは、巨大なゴミの山頂に登りきったショベルカーが、せっせせっせとトラックの荷台にゴミを積み上げている。付近を漂う悪臭に耐え切れず、一秒たりとも早くその場を去りたいという気持ちに駆り立てられた。
6. 2-2 Teku
その後、研修生と最終調査地点であるチョバール渓谷へ。チョバール渓谷はカトマンズの谷の水のただ一つの抜け口となっているところで国内の有名な観光スポットでもある。これまでの観測地点と比較すると強烈な悪臭というほどの匂いではないが、観光スポットと名を打つ割にはそこかしこに廃棄されたゴミが目立つ。川面には水中の腐敗物から発生したメタンガスの気泡がポコポコと現れていた。語り継がれる神話もあるこの渓谷の周りには自然が残されており、ここでもそう遠くない過去に、飲料水や、水浴びなどの生活水としてこの川をヒトが使っていたところを想像してみた。アングルを厳選すると自然豊かな渓谷の美しき写真が取れる観光スポットではあるが、アングルの外にはゴミ野原が広がり、腐敗物から発生したアンモニアや硫化水素などの匂いで充満するチョバール渓谷。とても残念な気持ちになったのはきっと私だけでは無いに違いない。
7. 2-2 Chovar
8. 2-2 Chovar 2
そしてこの日の一日フィールド調査を終えた研修生たちは、翌日ソムニードの研修施設に集合した。

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3.バグマティ川について知ったこと学んだこと50個

「みなさん、おはよう。昨日は一日かけてバグマティ川中間地点のパシュパティナートからチョバール渓谷までフィールド調査をしましたね。どうでしたか?いろんな気付きや発見があったのではないかと思います。じゃぁ、今日は今から何をするか、もうお分かりですね?」と研修のファシリテーター和田が尋ねた。
「、、、昨日発見したこと見たことを100個リストアップする!でしょうか、、?」と研修生。
「お?100個ときましたか。まぁそれでもいいですが、今回は50個で許してあげますよ。」と和田。
9. 3 groupd exercise
ということで、ソムニードではお馴染みのグループワーク研修。今回は昨日のフィールドワークで組んだ同じチームの4組が、「前日のフィールド調査で見たこと、聞いたこと、発見したことなど少なくとも50個」をリストアップし、その結果を研修生の間で発表し共有しあった。
10. 3-1 presentation

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3-1.バグマティ川下流は死んだ川?

沢山の発見事項を共有した結果、特に次の3つの点が特に興味深かった。

まず一つ目が、過去に計測した川の上流でのDO数値は最も高くて9.6, 最も低くて1.4であったが、今回の川下でのDO数値は最も高いところで1.04、最も低いところでは0.02であった。DO数値は、5以上であることが望ましく、数値が3以下であると動植物の川の中での生存は望めない。つまり、川下での計測結果はいずれの地点においても1.04以下であったため、計測を始めたパシュパティナート以南の川の質は「死んだ」状態の川の質であるといえる。

次に、上流と下流の違いについて。川沿いに密集する人の居住空間(住宅や建物など人の生活空間)から河岸までの距離が短ければ短いほど、川の汚染度合いが増加していたという点だ。

そしてゴミの回収状況とリサイクルについて。今回のフィールド出発地点から少し南下した川岸で、ゴミ回収を担う男性(業者?)に出会った。既述のとおり、ゴミ回収担当地域から最終ゴミ処理場であるシスドルまで二日に一度、一日4往復するという。回収だけでなく、再利用できる資源ゴミとそうでないゴミとの識別も行う男性もいたという点は研修生にとっても発見であった。政府はひと世帯につき、一日辺り1ルピー未満の予算をゴミ処理管理にあてているという。しかし、それは増加の一途を辿る人口過密のカトマンズ市内から出るゴミ総量に見合った予算ではなく、行政だけでは到底賄いきれない。また、ゴミ回収業者も毎日回収しているわけではないため、積み残しのゴミが街全体に放置され、そのゴミが川に廃棄されるのだろう。

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4.環境の授業をデザインする

そして最後に、「第1回~第4回の研修で学んだこと、見たこと、気づいたこと、得た全ての情報から、子供たちに教えたいトピックスを選び、順序をつけなさい。」というお題のグループワークが課された。

そもそも、これまでの一連の研修では、小学校の環境教育担当の先生たちが研修に参加し、バグマティ川について互いに学びあい、環境に関する授業をどの様にデザインすれば子供たちがバグマティ川について興味を持つようになるだろうかということを先生たちに考えてもらう機会を提供してきた。そこで、今回のグループワークを通じて、今までの研修で得たことを踏まえ、実際に子供たちに教える授業のデザインの枠組を考えてもらったわけだ。

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4-1.バグマティ川の事実

研修生たちは、「川って何だろう?」「バグマティ川について」「バグマティ川の現状」「死にゆく川」「エコシステム(川の生態系)」といったトピックスをあげた。いろんなトピックスをあげて授業のネタにしたいと、議論がつきない研修生。そこで和田ファシリテーターがひとこと。「ソムニードの研修では「事実」のみに焦点をあてることが鉄則です。」
11. 4 Designing
12. 4 Designing 2
フィールド調査でいろんなことを見聞きし、体で感じ、沢山のことを生徒たちに教えたいと意気込むあまり、なんとなく、いろんな方向に興味が向いてしまっているような気がする研修生。ここで大事なことが「事実」、つまり「具体的に表わせること」を忘れないことなのだ。例えば、「バグマティ川と人間の共存が可能な状況(条件)とは、具体的な事実で説明するとどのような状況(条件)であるのだろうか?」ということや、「バグマティ川にのみ生息する(今は失われてしまった)動植物とは何だろう?」、そして「生態系の仕組みを知るために、例えば川の中の酸素はどのようにして生産されるのだろうか、そして川と動植物と人間の相互利益の仕組みとは一体どのようなものだろうか」などといった具体的質問に具体的に答えることが、事実に目をむけることである。そうすると自ずと重要なことがみえてくるというわけだ。「死んでしまった状態の川」についてあーだこーだ議論する前に、「事実」にのみ沿っていけば実際に具体的に何をすべきかが明確になってくる。研修生たちがデザインする授業を通じて、ここの明確化されるプロセスを、一緒に体験できればいいなと私は期待している。

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5.終わりに

ここで2日目の室内研修の時間も終わりに近づいてきた。宿題として、「バグマティ川についての授業を行いたいと思う担当学年を設定し、その学年の子供たちの年齢に合わせたアプローチを考える」というお題が与えられた。

研修生は残す2回(第5回、第6回)の研修に参加後、実際に自分たちの学校でデザインした環境の授業を展開していく。環境教育担当といいながらも、バグマティ川についてほとんど何も知らなかった先生たち。そんな先生たちが、どのようにして自ら学び、学んだ知識や経験をどのようにして子供たちに伝達し、そして川に対する子供たちの気持ちがどのように変化していくのか、その変化がみえてくるのを私は楽しみにしている。

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注意書き

日本人スタッフ、ネパール人スタッフ、新しい日本人スタッフ:和田信明。ソムニードの代表理事、本事業プロジェクト・マネージャー。
奈良原志磨子。ソムニード海外事業コーディネーター。
ディベンドラ・バスニャット(Devendra Basnyat)。「ソムニード・ネパール」のリーダー。
ウジャール・タパ(Ujjwal Thapa)。「ソムニード・ネパール」スタッフ、プロジェクトコーディネーター。
池崎翔子。ソムニード海外事業コーディネーター(2013年3月末よりネパールへ赴任)。

第4回目の研修:第4回目研修日程は2013年4月1日~4日。第1回目から第3回目の研修はそれぞれ12月、1月、2月に2日間ずつの日程で実施された。第1回目と2回目では、川全般とバグマティ川について先生たち(研修生)が知っていること、知らないことを整理した。第3回目のフィールド調査ではバケツやすくい網などを持ち込み、川の水中や河岸に生息する動植物を観察した。普段小中学生に対して環境の授業を行う先生たちであるが、意外にも川全般やバグマティ川について知らないことが多いということに気づいた先生たちであった。
第3回目の研修はフィールド調査でバグマティ川を訪問した。1回目と2回目の室内研修では、川や水、バグマティ川について先生たちが知っていること、知らないことを整理した。第3回目のフィールド調査ではバグマティ川の上流(事業対象地域内)地点から。

溶存酸素濃度(DO):DO 測定においては、数値が高いほど水質がよく、低いほど水質が悪い。例えば、バグマティ川上流のある地点で測定した結果、数値8.55が得られたが、これは、処理を施せば水道水として使用できるレベルであり、生活用水の注ぎ込む小川とバグマティ川が合流する地点での測定数値3.66の場合、高度な上水処置を施した上でようやく工業用水、農業用水に使用できるレベルである。

私:本通信の語り手、池崎翔子。2012年7月から8ヶ月間のインド赴任を経て、インド事務所からネパール事務所へ着任。

パシュパティナート地点:ヒンドゥー教徒の聖地として有名、かつ世界遺産でもあるパシュパティナート寺院がある。

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